今では最早、何色かも分からない。束で固まった髪。
雨に降られて泥に塗れた自身の比ではない、汚れた衣服。
そして靴らしき物は、既に原型を留めてはいなかった。
━━スラムの住民か?しかしこの国にはスラムはないと、フェンヴェルグは鼻にかけていたな。
ドラクールは暫く考えていたが、答えは出せそうにない事を知った。
「さすがに冷えて来た…。」
今宵は雨の所為もあり、水温がとても低い。
羽毛布団に包まって眠るには、丁度良い気温だ。
「そのままでいろ。」
吐き捨てる様な少女の言葉。
「俺が凍死する時を一緒に待つか?」
「さあ。この底無し沼に沈んで行くのとどっちが早いかな?」
━━そいつは御免だね。
ドラクールは一気に勝負を決めるべく、少女の槍を力一杯引き寄せた。
突然の事だからか。
或いは彼女も武術の心得などなかったのだろうか。
何にせよ、少女も派手な水しぶきを上げて沼へと一直線に落ちた。
「いくら何でも、女相手に力で負けるかよ。」
ドラクールはそのまま槍を取り上げ、即座に沼から這い上がった。
「何してんだ、上がって来い!」
波が立っている水面に向かい、彼は声を大きくした。
「俺は何もしないから!!」
「ちょっ、あ、あたしっ!」
少女はどうにかこうにか、紙一重で顔を出した様子だ。
「泳げないのよ!助けてーッ!!」
一瞬呆れた後、気を取り直して彼は再び沼へ飛び込んだ。
「馬鹿か!何なんだよ、あんたは!意味分かんねェ!」
ドラクールは激しくなじる口調とは裏腹に、地面に手を付き水を吐く少女の背中を擦っていた。
-35-
[←] | [→]
しおりを挟む
目次 表紙
W.A