「あ…、ありがと…う…。」
少女は噎せ返りながら、ドラクールに礼を言う。
「普通、あの場面で見殺しに出来るか?」
自身が一番、らしくない行動だと虫酸が走る思いだった。
「さっきはゴメンなさい。」
彼女の態度は打って変わって、しおらしく謝罪をした。
「もう忘れた。」
ドラクールは濡れた服もそのままに立ち去ろうとした。
「あ、待って!ウチで乾かして行きなよ。」
ドラクールが振り返ると其処には、迂闊な発言に後悔してるらしき表情の少女がいる。
「来いって言っといて、何だ。その顔。」
特に世話になるつもりのなかった彼は、視線を前に戻して来た道を引き返そうと歩き出した。
「違うよ、そうじゃなくて。ウチなんか見たらびっくりしちゃうかなって。汚いから。」
━━その成りから逆にどうやって綺麗な家を想像しろって言うんだ。
「案内しろ。」
少女は驚嘆した表情を見せた。
「早く。」
健康には自信のあるドラクールだが、本当は体の芯から冷えていた。
「ココ。」
少女の指差す方向には、何もない。
否、正確には巨大な岩がある。
━━洞穴…がか?俺の方がまだマシな生活してるな。
心中に過る、何とも低俗な手前の対比。
自身と相手を比べ、優越感を抱くのも同情するのも、どちらも同等に失礼な事だ。
ドラクールはそれを知っているから無表情を保ち続けた。
元々これは彼の得意分野でもあるから苦にはならない。
「ちょっと待っててね。」
少女は洞穴からマッチを持って来て、入り口からは少し離れて焚き火をした。
「上着、ソコの木に引っ掛けておきなよ。」
彼は言われた通りに服を脱ぎ、火の側の適当な枝に掛ける。
「はい、タオル。ボロボロだけど。」
俯き加減におずおずと使い古されたそれを差し出す彼女に対し、ドラクールは無遠慮に奪い取った。
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