その後も何軒かの洋服屋を回り、ベネディクトはそれらを大量に購入した。
「有り難う、助かったわ。お茶でも飲みましょうか。」
「はい。」
二人はそれぞれ荷物を両手に抱えていた。しかし彼等は常々、これの何倍もの重量がある火器を背負って比較にもならない程の長距離を移動する訓練を受けている。
つまり本来ならば休憩などは全く不要なのだが、リュユージュはベネディクトの提案を速やかに受け入れた。
上官の気遣いに対してそれを無下に断る訳にもいかないという大義名分の下、例えほんの一時であっても共に過ごせる時間は、彼にとって何事にも代え難い貴重な物であった。
そんな、黄昏の頃。
不意にリュユージュは視線を感じた。
それはベネディクトも一緒だった様で、眼球だけを動かして二人は意志の疎通を測る。
━━素人だな、殺意はない様だ。
リュユージュがそう、判断をした時。
「あ!!」
突然上がった大きな声に、二人は反応する。
其処にはリュユージュを指差している、アンジェリカの姿があった。
「ちょっと!!」
「や、止めとけって。」
リュユージュの方に向かおうとするアンジェリカの腕を強く掴んでいる、ギルバートの姿も見えた。先程の視線は、恐らくギルバートのものだろう。
「あんた何してんのよ、このスケコマ…、んーっ!!」
「黙れ!!」
ギルバートは怒鳴りながら無理矢理アンジェリカの口を塞ぎ、力業で引き摺る様にして二人の目前から足早に立ち去って行った。
場は一時騒然となったが、彼等の姿が見えなくなると同時にそれは治まった。
「ああ、お友達?」
ベネディクトは苦笑しながら、リュユージュを振り返る。
「何故、公衆の面前で僕を侮辱する女を、友達と呼ばなければならないのですか。」
「思い出したわ!彼女、あの時の。」
━━あんな性格の女だと分かっていたら、先に借りなんか作らなかったよ。絶対に。
リュユージュは過去の自分を忌々しく思った。
「私、ずっと気になっていたのよ。貴方が、急使として彼女を寄越した時から。」
「え?」
ベネディクトは以前にアンジェリカに会した事があったのだが、今日まで思い出せずにいた様だ。
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