「どうかしたの?冷めるわよ。」
二人の前には注文した食事が既に並べられていた。
極度の緊張からかリュユージュの意識は非常に散漫になっており、置かれている状況を飲み込むのに少しの時間を必要とした。
「食べましょう?お腹空いたわ。」
「はい。」
ベネディクトは大皿の料理を取り分けると、リュユージュに手渡す。
「ありがとうございます。」
彼はベネディクトの手に触れない様に深く注意しながら、それを受け取った。もしも軽くでもその優美な指先に触れてしまったならば、充分に皿を落とす自信があった。
「美味しかったわ、良いお店ね。」
金色の髪をなびかせて城下町のメインストリートを歩くベネディクトは、通行人の注目の的だった。
勿論、彼(カ)のヴェラクルース神使軍 統帥として大権を有する彼女の顔は、世間にも広く知れ渡っている。
しかし、通行人が彼女を振り返る理由はそれだけではない。
単純に、美しいのだ。
同性は羨望の視線を注ぎながら溜息を吐き、異性は大きく目を見開いて足を止めている。見惚れるとは、正に彼等の行為の事だろう。
ベネディクトが訪れたのは、男性物の洋服屋だった。
「適当に選んでもらるかしら?」
「僕がですか?」
「ええ。彼は多分、貴方より二つか三つくらい年下だと思うの。体型は細身で、身長は私より少し高いわね。」
リュユージュは内心、狼狽する。
一体何故、ベネディクトが男性物の衣服を購入するのか。そして何よりも、何処の男に贈られる物なのか。
「私は甲冑や軍服ばかりで自分の格好にすら無頓着だから、若い男の子の服の流行なんてもっと分からなくて。」
「はあ。」
記憶を辿るも、該当するような人物は浮揚しない。更に彼女自身が当人の年齢を曖昧に言う辺り、そう親しくはない間柄、つまりはただの義理なのかもしれない、と、リュユージュは論結させた。
「貴方はいつも洒落た私服を着ているから、お願いね。」
「いや、別にこれは…。」
彼は俯いて自分の上着を引っ張る。
「ああ。貴方って意外と色男だものね。」
「え、あ、いや…。」
そう言い淀むリュユージュを見て、ベネディクトはからかう様に微笑した。
彼は自分に向けられたその笑顔に、喜悦する。
しかし同時に、笑顔を返す事が出来ない現実を哀しくも思った。
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