彼女を心の中で呼ぶだけで、彼女の姿を思い描くだけで。
たったそれだけで何処からともなく現れる筈のカーミラが何故、来なかったのか。
ドラクールは相変わらず薄暗い部屋で膝を抱え、その思惑にのみ捕らえられていた。
真意はルーヴィンが扉の向こうにいたからと言う理由なのだが、ドラクールがそれを知る由もなく。
彼はあっという間に、どす黒い感情に飲み込まれて行った。
━━皆、嘘吐きじゃないか。
これ以上何も考えたくないし知りたくないと、ドラクールは意識を遮断しようと試みる。
ベッドに潜ったはいいが、さすがに午前中から眠れる筈もなく。仕方がないから、ぼんやりと土壁を横向きに眺めていた。
窓の外から彼の耳に届く小鳥の爽やかなさえずりさえもが、自分を嘲っている様な気がした。
━━違う。皆が皆、嘘吐きなんじゃない…。
真っ黒な愚鈍な渦に落ちまいと、彼は抗っているのではない。
━━俺にだから嘘を吐くんだ。平気で。
自らが自身を全否定し、自らで闇に堕ちて行く。
誰もいらない。
期待しない。
必要もない。
信用しない。
そして、同時に
他の誰からも。
期待されない。
必要ではない。
信用されない。
━━もしかしたら、とても楽な事なのかもしれないな。
それは孤独と言う名の、安息。
この期に及んでも涙すら出ない自身を恨めしくも思っていた。
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