奇しくも、ルーヴィンもドラクールと同じ時間に同じ格好をしていた。

それも、ほぼ同じ場所で。



ドラクールの部屋を出た、直後。ルーヴィンは酷い目眩に襲われて足元が覚束なくなり、扉一枚を隔てて蹲っていたのだ。

━━酷い瘴気だ。

聖職者であるルーヴィンは、”魔”の気配が不得意である。脂汗に濡れた蟀谷(コメカミ)に、絹糸の様な金髪が張り付く。

━━彼奴は一体、何を連れ込んでいるんだ…。

肩で荒々しく息をし、この悪感が去るのを待つしかない。

━━調べる必要があるな。しかし、どうやって?



ドラクールの思惑通り、ルーヴィンはカーミラを一度とて目撃してはいない。

部屋に残された瘴気に、いつもあてられているだけなのだ。

━━ベネディクトは…。いや、それも酷な話しだ。

家系柄、ルーヴィンは聖職者に。ベネディクトは聖騎士に。

よって彼女も魔物の気配には強くない。






ルーヴィンは暫くその場で考え込んでいたが、国家機密の男の身辺を探れる最適な人物は思い付かなかった。

否。

実は一人だけ、思い付いていた。

だがまさか適用出来る訳もなく、その人物はすぐに打ち消された。



━━ウィルと会わせるぐらいなら、 彼奴の女なぞ放置でいい。



【王女】と【悪魔】の対面だけは避けなければならない。

他の何を差し置いても。



ルーヴィンは心中に固く誓うと、無理矢理に足を前に進め、石工の塔を後にした。

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