とある日、決定的な事件が起こる。

その時もバレンティナの進駐軍とキャンベルの駐在員が、激しい口論をしていた。此処までは普段と何ら変わらない光景だ。

暫くすると、キャンベルの駐在員が一人二人と集まり始めて来た。

「本当に生意気な女だな。ヤっちまおうぜ。」

何と、キャンベルの駐在員の男達はバレンティナの進駐軍の女性を輪姦し、最後は無惨にも殺害したのだ。



大公はダーヴィッドに対して提訴を起こすも、駐在員の男達は既にバレンティナの兵士により斬首されていた。

それを私刑に処されたものとして、彼は訴訟を完全に無視。幾分かの損害賠償金は支払ったものの、謝罪の要求に関しては取り合おうともしなかった。



この一件は、キャンベルとバレンティナの確執の要因の一つでもある。



事件後、バレンティナの進駐軍は総員、本国に召還された。

すると、キャンベルは駐在員を配置する理由がない。彼等もヴォーダンの要塞を去る結果となったのだ。

しかしそれは飽くまで建前であり、実際の事情は武器を手にした難民達に追い出された様なものなのであった。



王国軍と言う響きは、確かに良い。王の為、国の為に我が身を擲(ナゲウ)つ兵士の姿を想像する者も居るだろう。

しかしその実態は、滅私や尽忠とは程遠いものであった。

故郷を焼かれ、食い詰めて致し方無く兵に志願した者。或いは覇王への服従の証として人質にされ、強制的に連行されて来た者も居る。

そして、合法的な殺傷に喜色を浮かべているのは、戦渦に紛れて脱獄した快楽殺人犯だ。

この様な者達を統率する事は不可能に近く定められた軍律はほぼ意味を成しておらず、また個々の道徳心は皆無に等しかった。



ただでさえ、戦争により生活を脅かされている難民達である。

彼等のその行動は反逆と呼ぶより、自衛と言えるだろう。

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