その後、ヴォーダンの要塞に残った地元の人間と難民達はより多くの同士を受け入れる事を目的とし、現在の迷宮の様なビルが建てられた。
ちなみに当時は超々過密地域であり、一坪の面積に四人が生活していた計算になるとも言われている。
故に全てが超高層建築物となり、『天を摩する城』と呼ばれる様になったのだ。
時代が下がると、無法地帯を逆手に取った連中が爆発的に増えた。
例え違法行為を行ったとしても、バレンティナの行政機関は一切存在しない。そしてキャンベルは法治圏外である。
つまりどんな悪事を行おうとも、此処に居る限りは逮捕も投獄も無いのだ。
自分を守る法律も無いが、自分を裁く法律も無い。
無法地帯の法。それこそが、摩天城の法律なのだ。
ところが、近年になって結成された自警団の活躍により、それも徐々に減って行った。だが飽くまで減少した程度であり、悪党の巣窟である事に変わりはない。
しかし、彼等はキャンベルの領地に一歩でも踏み入れれば即刻逮捕である。
その為、敷地中で静かに暮らすしかなく、フェンヴェルグは摩天城を簡易監獄として捉えていた。
故に彼が領地の返還をバレンティナに要求した事は一度もなく、租借に関しては穏便に済まされて来ていたのだ。
今回フェンヴェルグが最も懸念しているのは、実態の掴めていない住人達に逃亡される事だ。
犯罪者でなくとも、国籍は疎か名前すら明確でない数千人もの人間に領地への侵入を許すなど、国史に残る恥辱となるだろう。
それを阻止する為、十字軍は出動を要請されたのだ。
-256-
[←] | [→]
しおりを挟む
目次 表紙
W.A