今を遡る事、四十余年前。

聖者ジークフリートを跪かせる事に成功したダーヴィッドは、全権の掌握を目前としていた。

『ヴォーダンの要塞』が築かれたのは、終戦間近の聖戦時代の事である。



パクスキヴィタス大陸の北東に位置するその半島は、名も無き領主の脆弱な土地だった。

領地の殆どは山岳で、僅かな平地も痩せていた。救いは海港が開かれていた事だが、其処も略奪を生業とするメレディス海賊団によって脅かされていた。

ダーヴィッドの保護下に置かれた民衆は貿易の困難を訴え、それを聴聞した彼が打ち出した手段が対海賊用の軍事施設を築く事だったのだ。

当時としては最新の技術を持つ、大口径の大重量重砲を多数設置。

命中精度こそ低かったものの、陸上より海上まで到達する超長距離射程砲は充分に威力を発揮し、メレディス海賊団は散った。

掲げた宣言通りに民衆の平和を守ったかの様に思え、彼等はダーヴィッドを支持した。



だが、「保護と銘打った支配より解放せよ」とバレンティナ公国が救世軍を派遣。この地帯は再び戦禍に飲み込まれた。

例え半ば強制的な支配であろうとも、安定した大国に従属すべきと言う民衆と、バレンティナに感化され独立を望む民衆との激しい対立が展開された結果、多くの難民を出す事となってしまった。

バレンティナ大公は、土地の租借を条件に軍隊の撤退を表明、ダーヴィッドはこれを受け入れた。



メレディス海賊団が去った事によりヴォーダンの要塞は『要塞』として機能する必要がなくなり、バレンティナ公国からの進駐軍と、要塞に勤務していた地元の人間と、そして難民が共同生活を営む場所に変わった。

地元の人間はダーヴィッド支持派が多数なので問題ないが、独立派の難民とバレンティナの結束は、キャンベルとしては何としてでも避けたい事柄であった。

その為キャンベル政府は、バレンティナの進駐軍を監視する為の駐在員を置いた。

しかし彼等は絵に描いた様な犬猿の仲で、常に諍いが絶えなかったのである。

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