配布された書類に記載されている今回の彼等の任務とは、長い間バレンティナ公国の租借地であった『ヴォーダンの要塞』の、現地調査であった。

言わば小規模な国勢調査の様なものだが、不穏な噂しか聞かない地域である。

実際の詳細な調査は行政が行い、警備には王国軍が当たるのだが、万一に備えて十字軍が出動の要請を受けた。



「何せ、元要塞だけあって銃器や兵器がごろごろ放置されてるって話しだ。」

そう言いながら、ボルフガングは全員を見渡した。すると隊員の一人が手を上げ、彼に質問をする。

「それは現在でも使用可能なものなのですか?四十年以上も保全維持されず、放置されているだけならば脅威にはなり得ません。」

「分からん。だが、当時の指揮官の子孫が今でも住んでるらしい。」

「この設計図を見る限りでは、大型火器は全て海上に向けて備え付けられたものですね。」

質問をした隊員は眼鏡の位置を直しながら、書類に視線を落とした。

「しかし今現在、要塞の周りは高層ビルで囲まれているだろう?こんなので大砲なんて放とうもんなら、全部倒壊するぜ。建設法を無視した建物ばかりなんだから。」

もう一人の隊員がそう、意見する。

「牽制するだけなら、海軍に頼んだ方が早くないか?そうすれば『摩天城』の住民は陸側に散開するだろう。」

更にもう一人が意見を言う。

「此処は盆地だから、陸側三方から包囲するだけなら簡単だ。しかしそれでは恐らく、抵抗されるだろうな。」

「大体、住民の数はどの位だ?」

「終戦直後は十万とも二十万とも言われていたが、今は数千人程度ではないかと。ええと…、この資料に記載はないのか。」

「減ったとは言えその大半が国籍も持たない不法入国者だとしたら、身元の確認だけで相当な骨だぞ。」

「逃亡者が出たとして、それは違法行為になるのか?」

「住民の国民登録が目的だから、その義務違反になるだろうな。」

隊員達は暫く、彼等だけで議論を繰り広げていた。

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