ギルバートは声を発する事も出来ずに、男の背中に飾られた碧玉色の末広十字が遠ざかって行く様を、ただ唖然と見ているだけだった。



「全員、作業に戻れ!」

敬礼を終えた看守長が囚人達に命令を下した声を聞き、ギルバートは漸く我に返った。

「あ、あの…。」

彼は遠慮がちに看守長に声を掛ける。

「君には、いくつか署名をもらわなければならない書類があるんだ。来てくれ。」

看守長は自分に付いて来る様、ギルバートに指示した。






看守達の詰所には、所狭しと机が並べられている。

ギルバートに椅子に腰を下ろす様に勧めると、看守長は眼鏡を取り出し、書類を揃えた。

「ここと、ここと、ここに署名を。後、こちらもだ。ここには拇印を。」

それらの処理が全て済むと、看守長はギルバートに向かって笑顔を見せた。

「釈放だ。おめでとう。」

「あ、ありがとうございます。」

ギルバートは狼狽えながらも、看守長に頭を下げる。その後、先程の令状を看守長に見せた。

「すみません。これ、どういう意味ですか?」

彼は字が読めない訳ではないのだが、目を通しただけで令状の内容を全て把握出来る程の専門的な知識は持ち合わせていなかった。

「ん?ああ。」

看守長は眼鏡の位置を直すと、それを要約して教えてくれた。

「君は裁判前に一度、大赦を受けていて公訴が消滅しているね。そしてその後の特定減刑で、懲役期間の短縮が行われたようだ。」

しかしその要約を聞いて尚、ギルバートには理解が出来ないでいた。

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