一言芳恩
粗方の後片付けを終え、ロザーナとマクシムは暫しの休憩を取っていた。
「半分以上、逃がしてしまったな。」
「ま、アイツらが訴え出たところでテメエがお縄を頂戴するだけだ。大丈夫だろ。」
マクシムは取り出した煙草に火を着ける。
「でももしこんなの、御上にバレたら間違いなくクビだろうな。俺、めちゃくちゃ借金あるってのに…。無職になったらどうしてくれんだよ。」
マクシムは紫煙と同時に溜息も吐き出した。
「それ、私に関係ある話しか?」
「ねえけどよ。つーか、突っ込み入れろ。」
「それは申し訳ない。私、大尉殿には毛頭興味ないのでな。」
「すンっげえ遠慮のねえ発言だな。つーか、興味あんのはレオンハルトか?アイツ独身だぜ、良かったな。」
「それはそうだろう、女性が苦手だと言っていたからな。推測する事は容易い。」
「情報早え。あんた男みてえに強えから、脈アリかもな。」
「大尉殿と会話していると頭痛がするのは、何故なんだろうか…。」
それを聞いたマクシムは、屈託なく大声で笑った。
「で?あんたの意中の男は誰なんだよ?」
ロザーナの視界に入って来たのは、真剣な表情のマクシムだった。それを見て尚、彼女は少し躊躇ったが、正直に言った。
「ルード殿だ。」
「うわ、無理だろ!それ絶対に無理!」
「無理?何がだ?」
彼女は首を傾げる。
「だってあの坊っちゃん、生まれた時から結婚相手が決まってんだぜ?つーか、生まれる前からか。」
ロザーナは勢い良く立ち上がった。
「私は色恋沙汰の話しはしておらん!!大尉殿は脳味噌が沸いているのか!?」
「酷えな!初対面でそういう事、平気で言うなよ!」
やはりマクシムは、とても楽しそうに笑っていた。
「ま、別に俺、正義振り翳して海軍やってんじゃねえけどさ。」
彼が吐き出す紫煙は、潮風に流されて消えて行った。
「それでもやっぱり、十字軍てのは王国軍と違って誰でも入隊出来るワケじゃねえからな。元海賊のクセにって思うと、正直、悔しくてよ。」
甲板に視線を落としたままで、語り続ける。
「アイツの過去を考えると、因果応報って本当あるのかもしれねえな。けど…、けどよ…。」
微かにその肩は震えているようにも見えた。
「あんまりじゃねえか、こんな仕打ち…。」
マクシムの一人言を、ロザーナは隣で聞いていた。悲し気に、目を伏せて。
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