レオンハルトは両手の剣を後方へ下げて空気の抵抗を減らすと、腰を落として一気に男に攻め寄った。
「来い!」
男はレオンハルトの首を叩き斬るべく、其処を目掛けて肉厚な剣を振り下ろす。
しかし彼はあっさりと男の太刀筋を見切り、ほんの僅かに軌道をずらしただけでそれを簡単にかわした。
最早この時点で、既に勝負は決したも同然だ。
何の困難も無くレオンハルトは易々と男を捉え、その右肩から首筋にかけて、左手の表刃をぴたりと突き付ける。
同時に、右手は切っ先を男の腹に狙いを定めた。
二刀流ならではの技と言えよう。
そして更に後退を講じる策として、自分の左足を男の右足に絡めた。
男に反撃の余地は一切無くなった。
剣を振り上げようとすると必然的にレオンハルトの左手も持ち上がってしまい、その刃で自分の首を斬る事になる。
尤も、その前に彼の右手が反応を見せるのだろうが。
余りにも歴然とし過ぎている実力の差に、海賊達は身動(ミジロ)ぎさえ出来ずにいた。
「剣を捨てろ。」
男は抵抗せず、右手の力を抜いた。波音に混じって金属が落ちる騒々しい音が響いた。
「何故、俺を狙った?」
「あ、あ、あんたに、賞金が懸かってるからだ。」
「賞金?当時ならいざ知らず、随分と今更な話しだな。個人的な怨恨か?」
「そこまでは知らねえ!あんたの首は取れなくても構わない、襲撃するだけでいいって…、前金も受け取った。あんたが通る航路も、そいつからの情報だ。」
「だからそれは誰だと聞いているんだ。」
レオンハルトは右手の切っ先を、強く男の腹に食い込ませた。
「し、し、知らねえよ!本当だ!目が緑色で髪は金色の…、すげえ小さい女みてえな男だった!それしか分かんねえよ!」
レオンハルトの瞳から表情が消えた瞬間、男は首を刎ねられた。
「ひい…っ!」
この男が頭目だったのだろう。海賊達はカラスを渡り、一目散に逃げ出して行く。
「あ!待て、この野郎!おい、どうすんだ!?」
マクシムがレオンハルトに指示を仰ぐも、彼は俯いて足元に転がった頭目の生首を無言で凝視したままだった。
「我々が結託した事実を知られている、逃がすのは不味いだろう!」
ロザーナも狼狽した表情でレオンハルトを振り返った。しかしその呼び掛けは、もう既に彼の耳に届いてはいない様だった。
レオンハルトは彼等二人に背を向けると、血塗れの姿のままで船室へと消えて行った。
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