我先にとカラスを走り抜けて来る海賊を、海軍兵士が自動小銃で迎撃する。
しかし銃弾を逃れた彼等が甲板に降り立つと、両者入り乱れての混戦となった。
すると味方までをも撃ち兼ねない銃撃は止み、刀剣が攻撃の主力に代わった。
「邪魔立てしなければ命までは取らん!」
「馬鹿か。笑わせるな、力が入んねえ。」
マクシムは容易に、海賊を斬り伏せて行った。
「女!おとなしくしてりゃあ殺しゃしねえぜ。そいつを捨てな!」
ロザーナはレオンハルトの剣を、丁寧に甲板に置いた。
━━早くこれを返してやらないと、彼が不利だ。
「ようし、いい子だ。こっちに来な。」
彼女は海賊の指示に従い、前へ進み出る。
「お前、トウは立ってるがなかなかの美人だな。後でたっぷり可愛がってやるぜ。」
下卑た笑い声を上げて海賊がロザーナに触れようとした瞬間、彼女はその顎に強烈な掌底を叩き込んだ。
防ぎ様の無い衝撃は波紋となって脳を激しく揺さ振り、一瞬でその機能を眠らせた。
海賊が崩折れる様に甲板に伏すと、ロザーナはその腰から刀剣を奪い取った。
「カイザー殿!」
ロザーナはレオンハルトの剣を、抜き身のまま彼目掛けて一直線に投げた。
飛来した白刃を、レオンハルトは難無く左手の剣の護拳に絡めて受け取ると、即座に右手に構えた。
「ちょ、危な…っ!あるだろ、鞘が!そこに!」
通過点に居たマクシムは、青い顔でロザーナを見る。
「申し訳ない!」
ロザーナはマクシムを振り返って謝罪をした後、改めて襲い来る海賊に向かって突撃して行った。
「おい!行くな、戻れ!」
「両足が着いているこの戦況、陸上の白兵戦と大差ない!」
マクシムは海賊の剣撃を素早く避けながら、もう一度ロザーナに向けて口笛を鳴らした。
レオンハルトと対峙している男が、口を開く。
「お前、『双剣のアンバー』だな?」
「それはもう、捨てた名だ。」
「そうか、そいつは失礼。メレディスのアンバーと言や、『裏切り者のアンバー』の名前で有名だったな。」
レオンハルトはゆっくりとした瞬きを終えると、正面の男を見据えた。
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