「それよりも、レジェス准将、及び彼女の部下全員の手枷を外して来て下さい。」
隊員に指示を出すレオンハルトに向かい、立ち去ろうとしていたマクシムが踵を返して来て詰め寄った。
「お前、馬鹿か?捕虜を自由にしてどうするんだよ。」
「自由と言っても、外洋にてこの船上から逃げ出す方が自殺行為だと思いますが…。」
「誰も逃げ出すなんて言ってねえ。万が一、船を乗っ取られでもしたらどうする気だ?」
「入念な身体検査は済んでおります。必要以上の拘束は、人道的ではありません。」
「甘っちょろい事を吐かしてんじゃねえよ。そう簡単にバレンティナ兵を信用出来るもんか。」
「マクシム大尉。あなたはこれまで、周りに裏切られてばかりだったのですか。」
「は?お前、一体何が言いてえんだよ?」
レオンハルトは一歩前に踏み出すと、真正面からマクシムを見据えた。
「自分には分かります。レジェス准将は、マクシム大尉が懸念されている様な事は絶対に致しません。」
それに対してマクシムも負けじと、顎を上げた挑発的な態度でレオンハルトを睨み付けた。
「だからその根拠は何だ、根拠は!言ってみろ!」
琥珀色の瞳が瞬きを終えると、先程までの穏やかさは消え去っていた。そしてその代わりに、異様な程の威圧的な雰囲気を湛えていた。
「そんなの、俺が常に裏切る側だったからだ。てめえと同じ臭いのする人間は、嗅ぎ分けられんだよ。」
マクシムは無意識の内、摺り足で後方に引き下がっていた。
それを追い掛けるかの様に、レオンハルトは更にもう一歩足を前に出す。
「残念ながら、俺はリュユージュ隊長とは違って短気なんだ。覚えておけ。」
常にレオンハルトと行動を共にしている第二隊の隊員達からすると、凄みを利かせる彼は見慣れた光景だった。
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