レオンハルトは一人、船首にて双眼鏡を手に海原を眺めていた。
普段はほとんどバーゴネットの下に在って白日に曝すなど滅多にない、彼の素顔。その頬に感じる海風はとても心地好さそうだった。
其処へロザーナが声を掛ける。
「今、宜しいか?」
「はい、何か?」
彼が双眼鏡から目を離して背後を振り返ると、彼女を筆頭に数人の女性が視界に入って来た。
「解放して頂き、感謝する。」
「あ、いや、いいえ。」
滑らかな動作で御辞儀をするロザーナに対し、レオンハルトはぎこちなく会釈をした。
「どうかされたか?」
「いえ…、その…。」
レオンハルトの態度に違和感を覚えたロザーナは、彼に近付いた。
「あ、あの、あまりこちらに寄らないでもらえますか。」
「これは不快な思いをさせて誠に申し訳ない。私はただ、謝意を示したかっただけなのだ。」
ロザーナは困惑した表情で、再び深々と頭を下げる。
「い、いいえ、そうではありません。自分、女性と接するのが得意ではないものでして。皆様で来られると、どうも…。」
彼女は驚いた様に目を見開いて、大きな瞬きを数回繰り返した。
ロザーナは部下の女性達を戻らせると、少し離れた位置からレオンハルトに問い掛けた。
「ルード殿の姿が見えないが、彼は何処に?可能であれば是非、挨拶をさせて頂きたい。」
「リュユージュ隊長は乗船しておりません。」
「ああ、そうだったのか。他の任務に当たられているのか?」
「いいえ。船酔いされるので。」
「ふ、船酔い?」
「ええ。本当に酷いんです。」
真顔でそう語るレオンハルトを見て、耐えきれなくなったロザーナは空を仰ぎながら大声で笑った。
「いや、失礼。貴殿達二人の、意外な一面を垣間見てしまった。」
「ああ、それはどうも…。」
レオンハルトは体裁を取り繕おうと、後頭部に手を当てながら愛想笑いをする。
それを見ながら、ロザーナは遠慮がちに口を開いた。
「ところで、貴殿、海賊だったのか。」
「ええ、そうです。先程の会話、聞こえてました?」
彼はすっかり重々しい表情になり、その横顔は哀切を極めていた。
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