ドラクールを部屋まで送ると、ルーヴィンは再びベネディクトの書斎を訪れた。
「しかし何故、犯人は囮に引っ掛からないのかしら。これまでの犠牲者の傾向に添った女性ばかりを用意したのに。」
腕を組み溜息を落とすベネディクトに、ルーヴィンは碧眼を向ける。
「情報が漏れているのではないか?」
その言葉に、彼女は驚きを隠せない様子で目を見開いた。
「そんな、まさか!だって、私達の他はドラクールしか…。」
「いや、彼奴は違う。殺人犯でもなければ、漏洩犯でもない。」
「では、一体誰が?」
ルーヴィンは眉間に皺を寄せ、苦り切った表情を見せた。
「未だ私一個人の憶測に過ぎん。幾らお前相手でも、公言は差し控える。」
ベネディクトは無言で俯いた。
ルーヴィンもそれ以上何かを語る事はなく、静かに時間が過ぎて行った。
音の消えた空間。
それはリュユージュにより、破られた。
「失礼致します、将軍。」
「お入りなさい。」
ベネディクトは努めて冷静を装う。
室内にいたルーヴィンに気が付くや否や、リュユージュは彼を露骨に睨み付けた。
しかしルーヴィンはそれを気に留めようとする素振りすら、僅かも見せない。無視というその行動は、リュユージュにとって最高の屈辱であった。
「どうかしたの?」
ベネディクトの問い掛けに、リュユージュは彼女を視界に収めた。
「ルクレツィアが戻って来ましたが。」
「ええ。貴方がせっかく協力を申し出てくれたのに、御免なさいね。」
「彼女に何か問題が?」
「いいえ、そうではないわ。此方に色々と不備があって、今回の作戦は見送る事にしたの。」
「そうですか。」
リュユージュは軽く会釈をすると、踵を返した。
━━自傷の果てに狂死する。
ドラクールの予言が、ベネディクトの頭の中に反響する。
「何か?」
背中に突き刺さる様なベネディクトの視線を感じ、リュユージュは彼女を振り返った。
「あ、いいえ。何でもないわ。」
取り繕う様なその笑顔を不審に思いながらももう一度会釈をすると、彼は書斎を後にした。
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