「さあ、いいわ。それを外して。」
ベネディクトの声に従い、ドラクールは頭巾を引っ張った。艶やかな長い黒髪が肩をさらりと滑り落ちる。
視界の妨げになったそれを、彼は右手で掻き上げた。
「此方へ来い。偏光硝子だから、向こうからは見えない。」
ルーヴィンが示す先の壁は一部が窓になっており、其処から覗くともう一つの部屋が見えた。
その部屋には、四人の女性達が此方を向いて静かに座っていた。
「では、お願いね。」
ベネディクトからの合図に頷くと、ドラクールは女性達に視線を戻した。
それからほんの、数秒後。
「いや。いないな。」
「いない?」
ルーヴィンとベネディクトは同時に聞き返す。ドラクールは首を縦に動かした。
「この中に、『城下町で連続殺人犯に刺殺される女』はいない。」
「どういう意味だ?」
「どういう意味も何も…。一番左の女は数年後に事故死する。その隣は、老衰だ。更に隣は持病が元の病死で、最後の女は自傷の果てに狂死する。だから、『城下町で連続殺人犯に刺殺される女』はいない。」
ルーヴィンとベネディクトは思わず、顔を見合せた。
「つまり、犯人は囮捜査には引っ掛からないって事だ。無駄だったな。」
「そう…。有り難う。」
ベネディクトは小さくそう呟くと、女性達を帰した。
「ねえ、ドラクール。」
彼は闇色の眼球だけをベネディクトに向ける。
「貴方は…最後まで、見る事が出来るの?その…、死際を。」
「ああ。」
しかし直ぐその視線を外し、俯いて自身の足元に落とした。
「視る事が『出来る』と言うより、普段は意識して『視ない』様に遮断してる。それでも無理矢理、頭ん中に入り込んで来るのもたまにあるけどな。」
ルーヴィンもベネディクトも、ただ黙っていた。正確には、驚きの余り言葉を失っていたのだ。
「あんた達は俺からしたら、蓋を開けっ放しのオルゴールと同じだ。生き様も死に様も全部、垂れ流しなんだぜ?」
初めて明かされた、彼の真実。その苦悩と困却は、誰にも推し量る事は出来ないであろう。
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