「おい、ベネディクト!どれだ、そのルクレツィアとやらは。リュユージュの持ち駒だったのか。」
ルーヴィンは不愉快そうにベネディクトに攻め寄った。
「え、ええ。一番右に居た小柄な女性がそうよ。」
彼女は少し驚いた様に説明を続ける。
「多少は武術の心得があるから是非、と、彼が。」
「成程な、それで全てに合点が行った。」
何の事か理解出来ず、ベネディクトは首を傾げた。
「残念ながら、この悲劇の終焉はまだ先の様だ。」
「兄さん…!?」
彼女は僅かに声を荒げた。
「分からんのか。物的証拠が一切無いとは言え、机上の空論と呼ぶには余りに辻褄が合い過ぎている。」
「辻褄?一体、何の話し?」
ルーヴィンは低い声で語り始めた。
「この事件、模倣犯が現れたのではない。真犯人が居るんだよ。」
「何ですって!?」
声を張り上げるベネディクトに対し、ルーヴィンはそれを静める様に強く忠告する。
「いいか、心して良く聞け。連続殺人犯として処刑した男は、冤罪だ。」
ベネディクトは震える両手を胸の前で強く握り締めた。
「恐らくあの男は偶然、被害者の今際の視界に入り込んだのだろう。それを『視た』ウィトネスが、犯人だと思い込んでしまったんだ。」
「そんな…!」
「しかし更なる問題は、『未来』にも『過去』にも、真犯人の姿が無い事だ。それに加えて先程述べた様に、物的証拠も一切無い。」
彼女は力無く項垂れると、机に突っ伏して頭を抱えた。
「検挙するには些か骨だな。」
ルーヴィンは酷く沈鬱な表情を見せると、そう呟いた。
『生者の未来を視る者』、
『死者の過去を視る者』。
連続殺人の真犯人は、両者が支配する時空に在る狭間を駆け抜けて行った。
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W.A