以水滅火



「来たぞーっ!!」

身を潜める様にして路地裏に小さく蹲っていたギルバートは、その声を聞いて思わず立ち上がった。

「進軍ラッパが聞こえて来た!!」

「大将は誰だ!?」

西方の町がバレンティナによる襲撃を受けたという噂は既に広がっており、城下町は騒然となっていた。

「バレンティナ軍の駆逐だろ?きっとクラウス様だろうよ。」

「ああ、そうだろうな。ベネディクト様は無益な殺生を好まない御人だから。」

続々と野次馬がメインストリートへと集まって来る。

ギルバートも、その内の一人だった。

徐々に近付く軍楽隊の音楽に乗って旗幟が見えると同時に、群衆は更に騒ぎ立てた。

「おお…!翠の生命十字だ!」

「リュユージュ様か!?リュユージュ様が大将なのか!?」

その名前に、ギルバートは激しい情動に駆られた。

群衆は喝采を上げ、少しでも隊列を間近で見ようと我先にと前に出る。



両端を歩兵と旗手に何重にも囲まれ、光輝く甲冑に身を包み、士気溢れる一軍を統率する大将として先頭を行くリュユージュ。

一方、大勢の群衆に紛れ込んだギルバート。

━━隊長さんて、こんなにすげえ地位だったのか…。

リュユージュは当然ギルバートの存在に気が付く事なく、彼の目前を通り過ぎて行く。ギルバートは自分達の落差を感じずにはいられなかった。



軍勢は相当なもので、全軍が通り過ぎるまでかなりの時間がかかると容易に予想出来た。

「今日は商売上がったりだ。」

メインストリートが通行禁止の為、何処からか商売人のぼやきも聞こえて来た。

特に何もする事がないギルバートは不満も不平もなく、軍隊の行進を見送っていた。



再び、にわかに喝采が上がると同時に、隊列の最後尾にリュユージュと同じ純白の甲冑に身を包んだ男が見えて来た。

その堂々とした姿にギルバートは興味を引かれた。素人目にも、彼が漂わせる雰囲気は歩兵のそれとは明らかに違う事が分かる。

「レオンハルト副隊長だ!」

「今やリュユージュ様の右腕だもんな。正に立身出世ってヤツだ。」

ギルバートの側の野次馬は、話しを続ける。

「しかしいかに高給取りになろうとも、あのリュユージュ様の部下じゃあ命がいくつあっても足りねえぜ。」

「違いねえや。」

声を潜めて笑い合う野次馬達に、ギルバートは心の内で同意していた。

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