━━彼が后妃の懐妊と王女の誕生を予言した時と、まるで同じじゃない!国家危急存亡の兆候に、何故気が付かないのかしら?



「クラウス!」

ベネディクトは広い歩幅で二人の背中を追い掛け、彼を呼ぶ。

「はっ!」

「命令を変更します。リュユージュの無事が確認された今、駆逐作戦など生温い対敵戦闘行動は取りません。」

「はっ…!?」

ベネディクトはリュユージュの方に向き直ると、新たな命令を彼に下した。

「貴方が指揮を取りなさい。」

「承知致しました。」

リュユージュは伏せ目がちにそう返答はしたものの、違和感を覚えていた。

「で、ですが、将軍。バレンティナ軍を拿捕し、送還するのではないのですか?これまでもそうされていたではありませんか。」

それはクラウスも同じだった様で、ベネディクトに説明を求める。

「送還など必要ありません。殲滅させます。」

激しい憎悪と嫌忌を滾らせた瞳で、彼女は二人を見据えた。









砂塵が舞う、軍営。

全軍、進軍に備えて整列し待機していた。

最前列には第二隊が、そしてその先頭にはレオンハルトが立っている。クラウスの命令で引いて来たリュユージュの愛馬も、彼の隣で主を待ち侘びている様だ。

にわかに隊員達が響めく。

甲冑姿のリュユージュが現れ出たからだ。

まるで新雪の様なその純白の甲冑は、太陽の下で眩しい程に輝いていた。

そして騎乗したベネディクトが彼の後に続く。

彼女が旗手達に渡した旗幟は、白地に翠色の生命十字が織り込まれた物だった。

彼等は高々と大将の標章を掲げる。己の存在を天に指し示すかの様に、旗幟は風に吹かれて一斉に大きく広がった。



ベネディクトは苦悩に満ちた表情でそれを仰ぎ見た後、軍令を下した。

「我が領地を侵せしバレンティナ軍を殲滅せよ!!全軍、バースに向け出陣!!」

軍楽隊の演奏と共に、ベネディクトとリュユージュは馬を前進させた。

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