様々な薬草や薬品の入り交じった独特の匂いが、リュユージュの嗅覚を刺激する。

「どうだ、動かしてみろ。きついか?」

「ううん、大丈夫。」

リュユージュは包帯の巻かれた左腕を、上に下に動かした。

処置が済むと同時に、クラウスが姿を現した。

「怪我の具合はどうだね?」

「問題ございません。」

リュユージュは即座にそう返答をする。

「大変お待たせ致しました、参りましょう。」

彼は着慣れた軍服に袖を通し、襟を正した。



リュユージュは釦を留めながら、軍医に目で合図を送った。それを受けた彼は、微かに首を横に動かす。

傷は決して浅くはない事を、軍医の瞳は物語っていた。

「ありがとう、ドクター。」

それはクラウスに真実を告げなかった事に対しての、礼だった。









朝日はもう随分、高い位置に昇っていた。

王宮の前には、結い上げた金色の髪をなびかせているベネディクトが居た。

二人の到着に気が付いた彼女は碧眼を向ける。

「行きましょう。聖王が御待ちよ。」

すらりとした白い腕で風に乱された髪を整える、淑徳で優雅な仕草。

旭光に彩られて光輝く彼女に、きっと美の女神も嫉妬する事だろう。

近寄り難い程の気高く厳かなその姿に、リュユージュの心臓は高鳴った。

激しい鼓動に苦しくなった彼はベネディクトを直視する事すら出来なくなり、俯きながらその後ろに付き従って歩いた。

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