風を切る多数の鋭い音に交じり、一つの異なった鈍い音がギルバートの耳に響いた。

鏃(ヤジリ)が、肉に突き刺さる音だ。

ギルバートの手にじっとりと脂汗が滲む。

だが、自分にも自分が乗る馬にも異常は感じられない。

「隊長さ…!」

「同じ事を何度も言わせるな!!」

リュユージュの声が届く距離からして、白馬の速度は落ちていないどころか増している。



矢を受けたのはリュユージュ自身だった。

しかしその直後、彼等は山中に逃げ果せる事が出来た。






山頂に向けてひたすらに暗闇の中の上り坂を行く。

幸いにも、討手は途中で引き返した様だ。

ギルバートは後方のリュユージュの怪我が気になって仕方なかったが、せめてこれ以上の負担にはなるまいと、前方のみを見据えて突き進んだ。












幾つもの山を越え、町を過ぎ、彼等は漸く首都近郊に到着した。

「もうすぐだな。」

「うん。」

数時間振りに交わされた会話。返事をするやいなや、リュユージュは再び手綱を短く持った。



白馬はその合図を受け、速度を上げ始める。

「それにしても、凄く馬銜(ハミ)を噛む馬だ。僕は手綱で乗るのは苦手だな。いつも脚だから。」

何事もなかったかの様に、平然とギルバートを追い抜くリュユージュ。

しかしその左腕は大量の鮮血に塗れ、白馬の脇腹までをも汚していた。



ギルバートは、怪我を気遣う言葉を掛ける事が出来ずにいた。

リュユージュの自己犠牲に対して掛ける言葉が何も見付からなかったからだ。

自分はもしかしたら彼を酷く誤解しているのではないか、と、感じ始めていた。

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