東の空が、暁から曙へと移り変わろうとする頃。






「ベネディクト将軍!ベネディクト将軍!」

クラウスにより激しく叩かれた扉の音に、ベネディクトは飛び起きた。

「早朝から失礼致します!!緊急事態です!!」

彼女は寝間着に手近な上着を羽織りながら、寝室の扉を開けた。

「一体どうしたの!?」

「西方の町バースが、バレンティナ軍の襲撃を受けているとの報告です!」

「何ですって!?」

ベネディクトは目を剥いた。

「敵軍の総数と戦況は!?」

「詳細は不明です!」

クラウスを振り返りながら、彼女は報告者を取り敢えず留置しているという警備兵の詰所へと急いだ。






警備兵に拘束されている若い女性を目にして、ベネディクトは更に驚いた。

微かに見覚えがあり、記憶に引っ掛かったのだ。

「貴女は…?」

「アンジェリカ・イルザードと名乗って居ります。」

アンジェリカの両手を拘束している警備兵が代わりに返答する。

ベネディクトはその名を聞いても、思い出す事は出来なかった。

その、強い信念を湛えた眼光。

確かに以前にも見た事は間違いないのだが、今はそれを気にしている状況ではない。

ベネディクトは一歩近付き、アンジェリカと視線を合わせた。

「私はこちらを言付かって参りました。将軍様に報告する様に、と。」

アンジェリカはリュユージュに託された物を示そうと、自由にならない身を捩った。

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