無感情な翡翠色の瞳は一切の抵抗を許さず、豊かな赤毛を持つ敵将の頭部は無情にも地面に転がり落ちた。

彼女に対してリュユージュは決して誰も気付かぬ程の、僅かな黙祷を捧げる。

その瞬間だけは、町人の叫喚も劫火の熱感も、全てが消え去っていた。






それを終えると、リュユージュはゆっくりと二人の側近を振り返った。



「しっ…、『死神』…か…!?」

一人は完全に戦意を喪失した様だが、

「『白の死神』よ!覚悟!」

もう一人は、そうではなかった。

リュユージュは速やかに主を失った白馬に飛び乗ると、腹を蹴った。

「待て!!『白の死神』!!」

側近に追い付かれまいと、彼は異国の白馬をどうにか駈歩させた。

「くっ…!」

真っ直ぐ走らせる事に集中しているうちに、側近が弓兵を引き連れて後方に迫った。

「撃ーっ!!」

号令と同時に無数の矢が、リュユージュを目掛けて降り注ぐ。

だが右に左にぶれる白馬を、弓兵は捉える事が出来なかった。

それに、流石は大将の軍馬と言うべきか。鞍上と意思の疎通が測れなくとも、駈歩でも遅くはない。

直ぐに荷馬を走らせるギルバートの背中に追い付いた。

「撃ーっ!!」

射られた矢の一つが、ギルバートの背に向かって弧を描く。

リュユージュは片手で手綱を持ち、右手の剣でその矢を叩き落とした。

「た、隊長さん!!」

リュユージュの気配に、ギルバートの意識は後方に向いた。

「振り返るなと言った筈だ!」

既に、町の外れまで来ている。山に入れば、今と同じ様には弓は使えない。

この僅かな距離が、命運を分ける事となる。

それを悟ったギルバートは敢えて、後方のリュユージュを振り返った。

「隊長さん、もっと手綱を張るんだ!!前後の動きに合わせて!!」

リュユージュは速やかに剣を口に咥えると両手で手綱を短く持ち、振子の様に前後する馬の首の動きに合わせた。

すると駈歩から襲歩へと変わり、白馬は速度を上げた。



程無くして、木々の生い茂る山路が目睫の間となった。

「撃ーっ!!」

三度、彼等に向けて矢が放たれた。

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