次の瞬間。ギルバートの体は後ろへ引かれ、アンジェリカからその手は離れて背中を強く床に打ち付けた。

慌てて起き上がると、アンジェリカの目隠しを血塗れの手で外すリュユージュがいた。

リュユージュがアンジェリカを殺さないとも限らない。

「…っ!!」

だがギルバートは声すら出せず、床にへたり込んだまま指を動かす事も出来なかった。









「ギルがあれだけ執着してたからどれだけいい女なのかと思えば、別に大した事ないな。」









アンジェリカは猿轡の所為で口は利けないが、リュユージュの侮蔑の言葉に対して明らかに怒気を含んだ形相で睨み付けた。

「なに、その瞳(メ)。」

リュユージュは不満気な口調で彼女のストロベリーブロンドを鷲掴みにする。

彼女は苦痛に顔を歪ませた。

「良かったね、君の恋人はちゃんと君を助けに来たよ。」

アンジェリカは当然、それを知っていた。

例え目隠しで顔が見えていなくても、あの混乱から自分を守っていてくれたのは、紛れもないギルバートだと。




「君は本当の絶望を経験した事はある?」

アンジェリカは本能で感じ取った。

抵抗すれば自分達のどちらかか、或いは両方共が殺される、と。

せめてこれ以上リュユージュを喜ばせない為に彼女に出来る事は、悲鳴一つ上げず、表情一つ変えず、解放される時を待つしかなかった。

「どこ見てるの?ああ、ギル?」

リュユージュはアンジェリカの頬を掴み、無理矢理に自分の方へ顔を向けさせた。

殺意に溢れた目も許しを訴える目もどちらもするまいと、彼女は目を閉じた。

「君ってとことん反抗的なんだね。」

リュユージュはゆっくりと腰を沈めながら、アンジェリカの乱れた髪を血塗れの指で撫でた。

「安心しなよ、殺しはしない。ギルとの約束だからね、一応。」

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