リュユージュは暫くそのままアンジェリカを凝視していたが、ふと力を緩めた。

「止めてあげる。”もっと酷い光景”を見る事にならなくて、良かったね。」

リュユージュは背後のギルバートに向かってそう言うとアンジェリカを解放し、地下室を出て行った。

垣間見たその瞳からは、一切の感情が消えていた。

彼に限っては元に戻ったと言うべきか。









リュユージュは誰もいない酒場に転がったままの自分のベルトと鞘を拾うとそれに剣を収め、外に出た。

山の向こうの北側の空が、妙に明るい。

夜明けまではまだ時間があるし、そもそも太陽が昇る方角ではない。

━━山火事?

しかし先日、雨が降ったばかりだ。小火程度ならまだしも、空までもが染まる様な大規模な火災にはならないだろう。

北には、一昨日列車を降りた田舎町がある。

田舎町とは言っても、山賊が蔓延(ハビコ)っていた様に治安は決して良くはない。

━━何かあったのか?

そうしてるうちに、騒ぎに気が付いた何人かの住民が広場に集まって来た。

街の自警団らしき紺色の制服の様な物を着た男達の姿も見える。

リュユージュはそのうちの一人に声を掛けた。

「我々にも詳しくは分からないのですが、住宅火災に間違いないだろうと言う判断です。」

消火活動の応援に向かうか相談しているところ、との事だった。

━━ただの火事なら関係ないや。

リュユージュはそう結論付けて、夜を過ごす場所を探そうと広場から離れた。






「おーい!!おーい!!」

その呼び声に、住民達は一斉に振り返る。

当然、リュユージュもだ。

「大変だ!助けてくれ!町が…焼かれた!」

馬に乗り慣れていない様子の男は、振り落とされまいと必死にしがみついていた。

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