━━畜生!まさか…まさか、こんな事になるとは!

リュユージュは手の平の中に収まる程の小刀を右手に、階段を駆け上がった。



「ギルは何処だ。」

その声に振り返った店主は、息を呑んだ。

喉を切り裂いた後に首を抱え込んで捻ったリュユージュの右腕は、滴り落ちる程の鮮血に染まっていたのだ。

「な、何をした!?お前、どこにそんな刃物を隠し持って…!?市場での揉め事は御法度だ!!」

「そんなの、見落とした貴方の責任でしょう?僕を咎め立てるのはお門違いだ。」

店主は衣服そのものを調べる事をしなかった。彼の小刀は、上着の内側に縫い付けられていたのだ。

リュユージュは自分の剣に向かって歩を早め、手を伸ばす。

店主はその腕を掴んで、それを阻止した。

「だ、駄目だ、御法度だと言っただろう!!規則を破ったらオレがボスに…!!」



「あの男が口を利ける状態かどうか、見て来なよ。」



抑え切れない程の激しい怒りを湛えた瞳で、リュユージュは店主を威圧した。

店主が怯んだその隙に彼の手を振り払い、剣を取り戻した。

帯剣するかと思いきや、リュユージュは乱暴にベルトと鞘を左手で後ろへ投げ飛ばした。

「お、おい!」

剥き出しの剣を持つ彼を阻止しようと、店主は一歩足を踏み出す。

微かな風切り音がしたかと思ったら、店主の眼前には強烈な光を放つ白刃が在った。

あと一歩踏み出していたら、その切っ先は間違いなく彼の喉に突き刺さっていただろう。

「言った筈だ。僕を敵に回さない方がいい、と。」

据わった目でそれだけ言うとリュユージュは剣を引き下げ、再び地下室へと戻って行った。









丁度時を同じくして、市場が始まろうとした。

「待たせたな。」

定食屋で見た山賊の残党が、拘束したアンジェリカを引っ張って来た。

「…っ!!」

ギルバートは出かかった叫びを飲み込み、思わず立ち上がった。

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