店主により、リュユージュとギルバートは別々の地下室に案内された。
リュユージュは窓も無い狭い部屋で、奴隷売買のみならず、”暗黒街”と呼ばれる所以である全ての悪事を取り仕切っているという黒幕を待っていた。
「やあ。今、店の主に話しを聞いたよ。」
ノックもなく現れたのは、定食屋で山賊に値段交渉をしていた件の太った男だった。
━━もう本当に面倒くさい。一日を無駄にした。
偶然とは言え、彼は既に目的の男に会っていたのだ。
「親戚が誘拐されちまったんだって?可哀想になあ。」
━━奴隷商人が何を言ってるんだか。
そう、リュユージュは腹の中で苦笑する。
「写真があるんだろ、見せてみろ。」
受け取った写真を男は念入りに見詰めている。
「残念だが、ワシは見た事がないな。」
「え?」
全く想定もしていなかった回答に、思わず大きな声が出た。
「まさか…、そんな!」
「うむ、やっぱりない。こんな幼女がいたらワシは放っとかん…、あ、いや。とても目立つからな。」
男は写真を突き返した。
リュユージュの心中は明らかに困惑していた。
ベネディクトの予想が、外れたのだ。
年端も行かぬ子供が彼女の頭脳を上回る行動を取るなど、あってはならない事だ。
「頼む、もっと良く見てくれ。髪の色は変えているかもしれないし…。」
写真を押し付けるリュユージュを落ち着ける様に、男は両手を彼の肩に置いた。
「半年以上前にバレンティナ人の5〜6歳の男児がいたっきり、子供は見てない。本当だ。」
リュユージュはぼんやりと宙を見たままで、男の言葉に反応は示さない。
「はるばる遠くから来たらしいな。まあ、そう気を落とさんと。」
男はリュユージュの肩を軽く叩くと、部屋を出ようと彼に背を向けた。
「待て。」
リュユージュは左手で男の右肩を掴むと、強めに引いた。
必然的に、男は右肩越しに振り返る。
一瞬の風切り音が鳴る。
男は自分の胸元に違和感を認めた。スープでも溢したかの様に、妙に生暖かい。
「ん?」
だがその時にはもう遅く、彼は喉を切り裂かれた後だった。
男は叫び声を上げる前に、首の骨を圧し折られた。
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