「昨夜、女が殺された。」

ルーヴィンは煙草に火を付け、それをドラクールに手渡す。受け取った彼は、見よう見真似で煙を吸い込んだ。

「もう裏は取ってある。」

ルーヴィンの言葉を聞く余裕などなく彼は酷くむせ込んだ。何故なら彼は普段、喫煙はしない。

「気持ち悪い、何でこんなの吸えるんだ?」

ぺっ、と床に唾を吐き出し、残っていたアルコールを喉に流した。口を濯いだつもりだろうか。



「何だって?裏?意味が分からん。」

ドラクールは空になってしまった酒瓶を忌々しく壁に投げ付けた。ぶつかり合った硝子と土壁は鈍くも鋭い音を上げる。



「その女が直前に会っていたのが…お前だよ。」

ルーヴィンは乱暴にドラクールの黒髪を掴み、力を込めて引き寄せる。

「商売女に未来があっちゃ悪いのか?それとも、俺が犯人だとでも?」

それに怯む様子もなく、彼は怪しく微笑した。



毅然としているルーヴィンと、それを嘲笑うかの様なドラクール。



「言っただろう。『裏は取れた』と。殺人犯は判明している。」

「ベネディクトが指揮を取っての犯人捕縛劇って訳だ。」

剣術に長ける彼女。
将軍を勤める彼女。

普段は穏やかな人格だが、断固とした善を信念としている。



目に映るこの国師と、同じに。



━━勧善懲悪など、無意味なのに。

ドラクールはやはり気力のない瞳でぼんやりそう考えていた。

-12-

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