「起きろ!!」
勢い良く開けられた扉の音に、ベッドの中のドラクールはうんざりした表情で頭を抱えた。
そして部屋に駆け込んで来た男がルーヴィンであった為、殊更に陰鬱としてしまう。
「…大声を出さないでくれ。」
「昨夜は街で何をしていた!?答えろ!!」
ルーヴィンはドラクールの態度や言葉を気にも留めず詰め寄った。
「何をしたか聞いているんだ!!言え!!」
「だから大声出すなって…。」
ドラクールを襲っている強烈な頭痛と悪心。
「二日酔いに介抱なぞ必要ない!」
その原因は、辺り一面に散らかった酒の空瓶を見れば一目瞭然だった。
「それよりベネディクトは?朝飯がまだ来ない。」
「呑気に配膳なぞしてる場合じゃない。」
ドラクールへの食事は毎回、ベネディクトが支度をし自ら運んでいた。
何故ならばそれは、彼の存在は最高機密も同然だからだ。従って軟禁に等しい生活を強いられていた。
そして、何者にも危害を加えさせない為でもある。
真の彼を知れば、欲しがる輩は無数に居るだろう。国家の存亡を賭けた大戦は免れまい。
望まなくとも、彼は暗黙の内に王国に庇護されていた。
だが渦中の本人はそんな意識もなく、また認識する手段もなく権利もなく。
無気力にただ其処に在った。
呼吸をし、食事をし、排泄する。
幽閉は久遠にも等しくいつしか暗闇に慣れた彼は、全ての意義を放棄する事にも慣れてしまった。
存在意義。
存在価値。
存在理由。
森羅万象に在るそれを、彼は忘却した。
-11-
[←] | [→]
しおりを挟む
目次 表紙
W.A