取り残されたギルバートは、一先ず倒れた剣を元に戻そうと柄に触れた。

「ん。」

ただそれだけで伝わる、確かなその重量感。

「何だこりゃ…。」

リュユージュの剣は片手で扱う物なので比較的軽いのだが、本物に初めて触れたギルバートには非常に重く感じられた。

「こんなのを軽々と振り回してたってのか。」

ギルバートは恐る恐る、鞘から剣を取り出した。

鈍い光を放つ、刀身。

右手でやっと持ち上げリュユージュがしていた形を思い出し、見よう見真似で構えてみる。

だが直ぐに傾き、慌てて左手を添えた。

しかし片手剣なので柄が短く、両手で握るのは反って困難だった。



ギルバートは、生命を手に掛ける事に躊躇や慈悲が一切ないリュユージュに嫌悪や畏怖を感じつつも、羨望と憧憬の念を抱いていた。

━━もしも俺があれだけ強かったら、今すぐお前を助けに行けるのに…。ごめんな、アンジェリカ。

彼は肩を落としながら、剣を鞘に収めた。






数時間後。

部屋に戻ったリュユージュは靴も脱がず、真っ直ぐベッドに倒れ込んだ。

「どうしたんだ?」

声を掛けながら歩み寄るギルバート。

「…ねる…。」

「え?」

「…。」

返事は無い。

具合でも悪いのかと、ギルバートは更に一歩近付いた。

「おい、隊長さん?」

そう顔を覗き込んだ時にはもう既に、リュユージュは寝息を立てていた。

━━ああ、『寝る』って言ったのか。

その寝姿を、ギルバートは暫く眺めていた。

頬に掛かっている細い蜂蜜色の髪の毛には癖があり、緩く内側に巻いている。

透き通る様なきめの細かい肌と、筋の通った鼻に艶のある唇。

威光を纏う翡翠色の瞳が閉じられている所為か酷くあどけなく見える、少年と青年の境目辺りの、彼。

━━まるで別人だ。

目蓋を飾る長い睫毛を持つその寝顔から、先刻の残酷なまでの殺戮を一体誰が想像出来ようか。



二人の僅かな休息の時間は、静かに過ぎて行った。

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