「あー、良く寝た。服を買いに行って、何か食べようか。」
目を覚ますなり、俯せだった体を勢い良く起こすとリュユージュはベッドから飛び下りた。
蹲ってソファで微睡んでいたギルバートは、その声に驚いて跳ね上がる。
「髪の毛がぐしゃぐしゃだ。」
夕日の射す部屋は真っ赤に染まっていた。
未だ思考の冴えないギルバートは、湯を使うリュユージュの長い影を目で追う。
彼は簡単に身支度を整えると、今度は剣の柄に麻布を巻いた。ギルバートは、ただそれをぼうっと眺めているだけだった。
「君、寝起き悪いね。」
「いや…、隊長さんが良過ぎるだけだと思うんだが。」
「早く行こうよ。お腹空いた。」
寝顔を見たせいか、ギルバートにはリュユージュがこれまでよりも幼く見えて仕方がなかった。
しかしそれは一瞬の錯覚だった様で、帯剣した彼は変わらぬ冷淡な雰囲気を纏っていた。
リュユージュは地下へと向かう階段を降りて行く。
外観からして酒場の様だ。警戒しながらも、ギルバートは後に続いた。
「この店でやるんだって。」
遅れて到着したギルバートが問う前に、リュユージュが口を開く。
「明日の、市場。」
漸く、ギルバートの脳は覚醒した。
「また来たのか、坊主。」
全身に刺青のある酒場の店主は、リュユージュを見て呆れた様な表情をした。
「うん。」
店主は、近付くリュユージュに向かって何かを言おうと口を開いた。
しかし次の瞬間、その視線は釘付けになり、言葉は出て来なかった。
昼間のリュユージュには無かった物。
言わずもがな、腰の剣だ。
「僕、お腹空いてるんだ。」
「はいよ、何にする?」
カウンターの真ん中に座るリュユージュと、彼の腰から目が離せない店主。
双方の駆け引きが、今、始まった。
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W.A