暫らく無言で女を見据えた後、男は言い放った。

「今夜は商売切り上げて早く帰りなよ。」

「なになに?意味分かんない。」

女は相変わらず、笑う。

「この”俺”がそう言ってるんだ。帰れ。」

さすがに男の態度に不愉快になったのか、女は睨みつける様な目線に変わった。



「お兄さん、何なの?」

「卜(ボク)者。」

「ぼく…?あ、占い師!?」

ぽん、と、明るく手を叩く女。

「ま、そんなところか?」

自身の職業に対して男は何故か疑問形で返す。

「ね、じゃあさ。私がいつ結婚するか占ってよ。」

「今夜早く帰れば、それがいつかは自ずと分かるよ。」



男は立ち上がり、今は静まり返った街の中心へと足を向けた。



「あ、待ってよ。遊ぼうってば、私もお金いらないから。」

「帰れと言った筈だ。」

追いかけて来る声に振り返る事もしない。

「じゃあ、せめて名前教えて、名前!」

懇願する様な声に男は一度立ち止まり、重い溜息を吐く。






「ドラクール。」




霧雨降る真夜中の静まり返った街に、彼の透き通った声が響いた。









━━来るんじゃなかった。



自身の行為に後悔するも、既に遅し。

ドラクールは明朝を推し量り、更に大きな溜息が出た。

-10-

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