宝物 



「いよいよ明日だな。」

「うん。」

ほとんど毎日、フラフラと夜遊びの様な事をしているあたしに天が味方してくれる訳がない。

受験前からもう合格は、諦めていた。



「バカ。やる前から諦めてどうする?」

「バカって言われても。」

「ちょっと来なさい。」

彼の足は自分のアパートへと向かう。

「入らなくていいから。つか、むしろ子供は入るな。」

『203』とだけ書かれた部屋の前で、あたしはおとなしく待っていた。

中からガタガタ、物音が聞こえる。



「お待たせ。コレあげる。」

手渡されたそれは、古びたシャーペンだった。

「いや、やっぱりあげれない。受験終わったら返して。」

「これ…?」

「俺の中のジンクス。ココイチ勝負の時に、いつも使ってるヤツ。

学校の入試もそうだったし。教習所の卒検とか、入社試験とか、その他諸々。」

「ホント!?」

「失くすなよ、絶対返せよ。」

「はい!」

あたしはそのシャーペンを握り締めた。






帰り道、涙が出そうになった。

あたしは見離されてなんか、いない。

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