追憶

「あれ? おかしいのう…」
「なんだ、どうした辰馬」

深々と雪が降りしきる中、坂本辰馬はポツリと呟いた。
どうにも嫌な予感のする台詞に後ろを歩いていた坂田銀時は普段より白くなった頭を振りながら尋ねる。

「アハハハハ!! …道に迷ったきに」

銀時はガックリと項垂れた。
予想通り過ぎて、怒りを通り越して呆れの混じった表情である。

「……おい。てめぇが分かるっていうから大人しく着いてきたんだぜ!」
「いやぁ、こっちじゃと思っちょったんじゃがのぅ。こん雪じゃ方角も分からん」

数刻前の自信満々な辰馬の姿を思い出したのか、怒りが戻ってきたらしい銀時は拳を震わせた。

「…この厄介な荷物がなけりゃ、迷わずお前をぶちのめすのに」

チラと、己の背中と辰馬の背中を見やり、銀時は溜息を吐いた。

「…じゃあせめて、何処か休める場所探すぞ。いい加減疲れた」
「…そうじゃな。此奴らも休ませんと」

銀時の嫌味に清々しい位のスルーをかました辰馬は背中にある荷物もとい、気絶している桂と高杉を見る。
高杉は銀時の、桂は辰馬に背負われている。当初は出血もしており、酷い状態であったが、何とか一命を取りとめた。

流石の白夜叉といえども、人一人を背負いながらの逃亡劇はキツい。
涼しい顔をしているが、辰馬だって限界を迎えているだろうことは銀時にだって分かっている。

「おっ! 見てみぃ銀時! こげな所にお地蔵さんじゃ。拝んでゆかんか? もしかしたら御利益があるかもしれん」

しばらく歩いてまたも辰馬は底抜けの明るい声で普通に振る舞う。

「…神や仏がいるならいいかもな」

自嘲とも取れる笑みを浮かべながら、銀時は地蔵を見つめた。

「…あれ?」

白く染まっている地蔵の首元に何かを見つけ、銀時は痛む身体を屈めた。
地蔵の首元に降り積もった雪を手で払い、じっと見つめる。

「…? なんじゃ? 布?」
「……………」

地蔵の首元に巻かれた布をじっと見つめ、黙りこくってしまった銀時に、辰馬は首を傾げる。

「銀時? どうした?」
「……こ、れは……」

青ざめた銀時の顔に辰馬は声を張り上げた。

「どうしたんじゃ! 銀時!」
「…そんな、どうして…」
「銀時!」
「……こっちだ」

辰馬の質問には答えず、銀時は歩みを進めた。
疑問は色々浮かぶが、銀時の張り詰めたような空気が発言を許さない。
仕方ないとばかりに辰馬もいつになく真面目な顔で銀時に続いた。





辰馬は意識が浮上する感覚に、気分の悪さを感じながら目を開けた。

「おーい、大丈夫か?」

最近知り合ったばかりの奴だ。己の髪よりは軽めの天然パーマ。しかし色は己と正反対の白。

「大丈夫じゃ! 何か用か?」
「何か用かってお前が行きたいって言うから今日行こうって言っただろ」

数日前の話を思い出した辰馬は、ああそうじゃった、そうじゃったと言って笑った。

「おら行くぞ!」

そう言って笑った彼の顔に違和感を感じた。

「さっきの変な夢のせいかのぅ」

ポツリと呟いた言葉は誰に聞き咎められることもなく、青い空に吸い込まれた。





しばらく歩んでようやく足を止めた銀時は、下を向いたまま言った。

「ここなら休める」

その言葉につられるように辰馬は足を止め、その場所を確認した。
そこには一軒の家があった。以前は立派だったであろう門に、一軒家としては広い敷地。
しかし辰馬は、そんな些末なことは気にならなかった。何故なら、家全体を覆い尽くす程の焼け跡があったからである。

「…ここは…?」
「…俺の、俺達の、原点だ」

銀時は焼け跡には目もくれず、裏手へ回る。慌てて辰馬が追い掛ける。
全焼していなかった部分があるのか、先程焼けていた部分とは少し離れたところに小さめの離れがある。
銀時は、慣れた足取りで離れへ向かう。
入ったところで銀時は、高杉を下ろし、部屋の奥へ入っていった。
行く宛も尋ねる人も居なくなり、手持ち無沙汰になった辰馬は高杉の隣に桂を下ろし、銀時の戻りを待つ。
家の隅々まで見渡し、先程の銀時の言葉の意味を考える。

「…前話ちょった師匠の家かのぅ…」

以前、一度だけ聞いたことがあった。彼等にとって大事な人と言うことは分かったが、彼等はその人については、3人揃って口を噤んでいたのを覚えている。

「どんな人だったのかのぅ」

あの個性的な3人が慕う人だ。きっとすごい人物なのだろう。
辰馬がそんな些末なことを考えていると、銀時がようやく奥から出てくる。





ガタン、と揺れた感覚に、ハッとした。
隣を見れば、彼はこちらを不思議そうにこちらを見つめていた。

「お前、よく寝るな」
「すまん、すまん。ボーッとしちょった」
「もう次の駅だから、もう寝んなよ」

そうだ、彼と他2人と知り合った時から気になってた松陽先生と会いたいと3人にお願いしたのだった。3人とも素直でないから、快く、ではないが、OKしてくれたのだから別段気にしてはいない。
目的の駅で電車を降りて、彼の後を着いていく。
先程起きた時から、モヤモヤとした感覚に辰馬は頭を捻る。
前にもこういう風に、彼の背中を追い掛けることがあった気がする。
そういえば、先程の夢もそんな感じだったなぁ。と辰馬は意識を巡らす。
だがあんな経験は絶対していないし、あのような戦装束など、着たこともない。
疑問を持ちながらも、辰馬は彼の後を着いていく。





奥の部屋に高杉と桂を連れて、怪我の手当をすると、銀時は襖に寄りかかり目を閉じる。辰馬は銀時のそんな様子を見ながら、未だ眠り続ける2人を見下ろす。

どのくらい時間が過ぎただろうか。
いつの間にやら眠っていた辰馬はハッと目を覚ました。
銀時は先程と同じ格好で、しかし目を開けていた。
辰馬がその視線を追い掛けると、先程まで眠っていた2人が起き上がり、銀時を見つめていた。

「…おんしら、気が付いたのか!」
「…一体、どういうことだ、銀時」
「…………」

高杉の棘のある言葉に銀時は無言を貫く。

「…落ち着け、高杉」

黙って銀時を見つめていた桂が口を開く。

「…辰馬、説明してくれ」

突然掛けられた言葉に驚きながらも、3人の異様な雰囲気に、辰馬は珍しく真面目にこれまでの経緯を話した。

「だからって、何もこんなタイミングで此処に来ることはないだろ!」

銀時に掴みかからんとする高杉を桂が止める。

「…俺だって、」

ようやく喋った銀時に、桂も高杉も、もちろん辰馬も、動きを止めてそちらを見やる。

「…俺だって、此処にはもう来ない、来れないと思っていた。…でも皆ボロボロで、辰馬のせいで道には迷うし、ぶっちゃけもうダメかなって思ってた。でも地蔵を見て、どうにも我慢出来なくて、気付いたら門の前に立ってた」

銀時の言葉に、桂も高杉も黙り込んだ。
辰馬はそもそもこのような敗走を余儀無くされた原因を思い出した。
彼等3人の師の斬首である。

動揺した高杉が怪我を負い、それを庇った桂も怪我を負い、銀時が薙ぎ払う。
外からそれを見るしかなかった辰馬は、それでも全てを斬ろうと向かう銀時を止め、逃げようと説得したのだ。





「…い、……ま!」
「……じ……ぶか? こ…つ」
「もう、……だろう」
「そんなこと言ってはいけませんよ」

聴き覚えのある声の中に、聴き覚えのない声が鮮明に聴こえて、辰馬は急激に覚醒した。

「あ、目ぇ覚ました」
「大丈夫か?」
「そのまま寝てりゃ良かったのに」
「晋助、いい加減にしなさい」

知っている3人の他に、温和そうな男が1人。

「お前、先生に会った途端、ぶっ倒れるんだからよ」
「はじめまして、吉田松陽です。いつも3人がお世話になってます、坂本辰馬さん。」
「先生違います。そいつには迷惑しか掛けられていません」
「そうだ。世話してんのは俺等だ」

辰馬の脳裏に先程の夢がフラッシュバックする。
今目の前に居る3人と同じ顔なのに、全く違う表情を見せる3人がカブる。

「あぁ、良かったのぅ。銀時、桂、高杉」




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