残酷すぎる事実に気付く話

何度も東宮大奥で宮に抱かれる。

「ふぁっ宮っ」

正面から貫かれて、宮になれた結合部がグチャッと水音を立てるのがいやらしい。
抱かれている私をつぶさに見詰めてくる宮に両手を伸ばすと、一瞬辛そうに、その端正な顔を歪めて、次の瞬間には激しく突き上げられた。

ヌチュッグチュッといやらしく響く淫猥な音。

「くそっ、智彬っ」

切羽詰ったかのように呼ばれる自分の名が切ない。

「あっあんっ、ふあっ、もっとっ」

視界がチカチカする程の快楽に脳髄がとける。
宮に何度も『抱き染められた』体は、宮の熱が愛しくて、欲しくて、堪らない。
もっと奥に宮の熱が欲しい。
もっとずっと繋がっていたい。

浅ましい体になった・・・

至高の位である宮は何を望んでも許される。
ましてや近従が宮の寵愛を受けることは本来喜ばしいことである。

だが・・・今回異質なのは、私は宮の命を狙った『謀反人』であることだ。
そんなことを考えていると、宮は私の奥をグリグリと掻き回した。

「っつ!!!ああぁあぁ!!」

一際強い快楽。だがいつの間にか宮に私自身を握られててイクことが出来ない。

「っ宮・・・」

いやだと、イカせて欲しいと首を振っても宮は獰猛に笑うばかり、
けれど『抱き染められて』、主人である宮の笑顔に心がざわつく。
全てが隷属していた。

「俺がお前の奥に出すまで出すんじゃない」

そういわれて、また奥に宮の熱を注がれるのだと想うと歓喜で震えた。
それが分かったのだろう宮は「淫乱になったな、智彬」と冷たく言って、私の首筋に噛み付いて痕をつけた。


とろりっと親友である智彬の中に自分の欲を注ぎ込む。
もう何度、中に注ぎ込んだのか、それだけで性の虜になっている智彬は艶やかに鳴いた。
これで智彬は俺の子を孕むかもしれない。
でもそれでも良かった。

皇族である俺が『力』を解放して抱けば、たとえ役目持ちの最上位である智彬ですら虜になるのは分かってた。
俺にだけ抱かれて喘ぐ智彬を望んだのは俺自身。
この親友を抱き染めたい欲は昔からあった・・・でもそれを必死に留めてきたのだ。
隣りに居て欲しかった、智彬自身の意志で俺の側に居て欲しかった。

帝になることは決まっていた・・・至高の位になる。
一人で全てを背負い、国の御柱になるのは分かってた。
だから自由の無い俺の望んだ最後で唯一の願いが智彬だった。

智彬が側に居れば良かった、公私共に俺の側で、俺の支えで、喧嘩して笑って。
そんな関係で俺は良かった。

それだけで、よかったんだ・・・

『虜』として智彬を手に入れることは容易くて…だからこそ俺は自分の中の獣を抑えていたのに。
けれどと、俺は快楽にとけた智彬を見下ろす。
ぼうっとしたように智彬が俺を視界に映している。

その瞳が、切なくて。

俺は、俺に中出しされて達した智彬に、噛み付くように口付けた。



東宮・黎明の宮は兄である今上帝・醍慈の宮に呼び出され紫宸殿に来ていた。
御簾を取り払い対面している二人の顔は似ている、同じ『母』から生まれたのだから当然といえば当然だが。
だが兄の方が幾分か柔らかい性格をしていると、周囲の大臣達は言っていた。

「そなた、謀反にあったそうだが」

まず兄が口を開いた。威厳のある良く通る声だ。
それに黎明の宮は頭を下げ答えた。

「はい、ただ事無きを得ましたので兄上のお手を煩わせることは何もありませぬ。」

頭上から「そうか」とだけ言った兄の声を聞きながら。
追及されても、智彬を罪人として断罪することは東宮位を返上しても、断固として拒むつもりだった。

そして二人の兄弟の対面は呆気ないほどに終了した。
だが二人の対面の直ぐ後に、帝に呼び出された近衛府長官・和義は悪い予感がしていた。

そしてその予感は、

「和義・・・左大臣・智彬を謀反人として即刻裁く・・・余の紫宸殿まで引っ立てよ」

当たることになるのだ。


この津麒國では神事と国事が直結している。
皇族の仕事は多く祭儀なのである。
そういった祭儀は一日では終わらず、大抵、一週間や一ヶ月などかかるのだ。

そして宮が祭儀に出られている間、私は東宮大奥の一室にいた。
白の直衣を宮が私の為に仕立てて下さり、それを纏い、宮が持っていらした書を読んでいた。
皇族殺しを企てた罪人には過分の温情だった。

だがそこに近衛府の役人が押しかけてきたのである。

「左大臣智彬!!」

宮の大奥まで上がれるのは、宮以外には在り得ない。
もしくは・・・

「帝のご意志で参った!恐れ多くも東宮・黎明の宮をしいし奉ろうとした、そなたを打首とする!!」




祭事で宮中を一週間空けることになっていた。
その為に智彬を俺しか入ることの出来ない東宮大奥へと置いてきた。

俺を殺そうとした智彬・・・今度は無理矢理、抱き染めた。
俺の顔を見ることも嫌だろうが・・・俺は智彬を手放すつもりは無かった。
手放してなどやらない、お前の全ては俺のモノだ。

それなのに、留守を任せていた守護の者が俺のところに駆け込んできたのだ。
曰く、東宮大奥に居た智彬が・・・罪人として帝の元に引っ立てられたと。
そして次に報告された言葉に・・・絶句した。

「なんだとっ今、何と申したっ」

聞き返した自分の声が震えていることを東宮は気付かないほどに狼狽していた。

「帝の命で、左大臣智彬殿・・・露となられました」

死んだ?智彬が?
思わず、宮は足元がふらついて、その場に崩れ落ちる。
膝が打ち付けられたが痛みすら感じない程に、俺は動揺していた。

「馬鹿なっ」

手で玉砂利を握り締めて、絶望に震える。
俺に任せて欲しいと言ったのに、兄上は聞き入れてくださらなかったということか。
息が上手く出来ない。

智彬が死ぬだと?
そんな馬鹿なことが・・・と、そんな宮に声がかけられた。

「宮」

ハッと顔を上げる・・・宮を呼び止めたのは智彬の父であった。
智彬と似た声に思わず、反応してしまった。

すると智彬の父・篠彬は温和な顔を哀しみで歪ませて、宮の前に平伏した。

「宮っ、不肖の『我が弟』が御身をしいし奉ろうと画策しっ!!
一族の頭領として面目もございませぬっ」

『我が弟』?

俺を殺そうとしていたのは智彬だ。
それなのに・・・目の前の篠彬は『弟が俺を殺そうとした』という。
たしかに篠彬の弟・近景は、俺の弟の後見もしていて俺を疎んじる傾向があったが。

「どういうことだ?篠彬・・・詳しく申せ」

真実を・・・俺は知ることになる。


・・・智彬がおらぬ。
何処を探しても、誰に命じようとも、決してもう逢えぬ。
声を聞くことも、話を聞いてやることも、共に笑い合うことも出来ぬ。

『宮』

そう柔らかく俺を呼んでくれる幼馴染はもう居ない。

『幾ら私が言葉に尽くそうとも、宮のお心にかかった霧を晴らせませぬ』

直ぐに俺を見詰めて応えた姿が離れない。

神事などそっちのけで、東宮大奥へ参内した。
追いすがる陰陽寮の陰陽師たちへも『知ったことかっ』と啖呵を切った。

「智彬っ!!」

足音高く、東宮大奥に居たはずの智彬を探す・・・いないと分かっているのに・・・

逢いたい、逢いたい、俺だけの側にいればいいっ!!
抱き締めた、抱き染めた、そなたのことしか頭に浮かばぬっ!!

漆黒の髪・・・瞳・・・俺だけを映す瞳が好きだった。

そしてバンッと二人で体を重ねた部屋の扉を開けると、文机の上に文が載せられているのが分かった。
流麗な筆跡でそれが智彬のものと分かる。

おそる、おそる開ければ・・・歌が記されていた。

思へども 身をしわけねば 心を君に たぐへてぞやる


こんなにも貴方を想っているけれど、この身は二つに裂くことが出来ないので・・・
目には見えない心だけを共に連れ添わせることであろうよ。


この智彬の無償の想いに・・・俺は何も返していない。
そう想うと涙があふれて止まらなくなった。

自分のこの広い宮で崩れ落ちる、こんなに此処は広かっただろうか。
誰でもいい、誰か。

智彬を俺に、返してくれ・・・それだけで良かった。



けれど無情にも時間は過ぎる・・・

一日経っても、二日たっても俺は智彬には会えぬ。
二人で交わした情を思い出せば、涙が自然流れた。

目を開けて、智彬がいない広い室で俺は言い知れぬ空虚に襲われる。

「智彬・・・」

呼んでも返事をする人は、どこにも居なかった・・・




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