リセット出来たらと願う話

宮はバサッと二人を隔てていた御簾を取り払った。
その姿に智彬の心臓がドクッと大きく動く。

一歩、一歩、近付くたびに宮の月下香が鼻孔をくすぐる。
恐れ多く平伏していれば、宮が懐からだした扇で智彬の顎をクイッと持ち上げた。

その宮からの冷たい視線に凍りつく。
その姿に智彬は泣きたくなった。

自分が宮の信頼を裏切っておいて、なんて虫のいい。
こんな宮の視線を私は知らない・・・
いつも側に居たから知らない・・・

そして次の瞬間、宮の手が伸びて、力任せに智彬の着物の合わせを掴んでグイッと立たせた。
無理のある急な動きに智彬の足がもつれそうになる。
そもそも宮の方が頭一個分大きいということもある。

だが宮はそんなことは気にせず、ズルズルと東宮殿のさらに東宮大奥へ連れて行った。

東宮大奥は長い回廊を通らなければならない、
その奥の間へ通じる回廊を宮に力任せに引っ張られながら、何故と、智彬はその漆黒の瞳を見開いた。
此処から先は、東宮と東宮妃しか入れない、つまり閨なのだ。

これから起こることに血の気が引いた。


ドンっと押しやられ智彬は既に敷かれていた褥の上に倒れ込んだ。
その姿を見ながら宮は、これから智彬を『抱き染める』ことを強く意識した。

親友であった智彬を抱くのは酷く自分を欲情させた
「宮・・・」と恐れを滲ませて見上げてくる幼なじみに一歩近づく、また一歩。
その度に皇族だけが持つ圧倒的な力を解放する。

途端に倒れている智彬が瞳を見開いたのが分かった。
これ程と思わなかったのであろう。

そう思って宮は咽喉の奥でクツリッと笑った。

階級が、そのまま「力」として結び付く津麒國では。
帝が一番「力」が強い。そして次に「東宮」、「大臣」と続いてゆくのだが、
皇族は国を統べるゆえに「役目持ち」の力を大きく突き放したものを有している。

元々「役目持ち」の者は自身より「低位の者」を抱けば、その者を心身縛ることが出来る。
それは精々体が離れられないといったもの。
だが皇族に「抱き染め」られれば、その者は、皇族の色に染まり、他の者を受け付けなくなる。
最悪は死に至る。

つまり智彬は今後、宮以外の男とは関係を持てない。
それを撤回できるのは、「抱き染め」られた相手より「高位」であること。
帝に告ぐ「東宮」である宮に抱かれれば撤回できるのは国を統べる「帝」だけだった。

「お前を俺のものにしてやる、智彬」

獰猛に微笑んで、宮はゆっくりと智彬に覆い被さった。
抵抗が出来ないように「力」を最大限出して、染めるように口付ければ、宮の思ったとおり智彬は抵抗せずに口付けを受け入れた。
舌をスルッと入り込ませて、歯列をなぞり、吸い。甘がみすれば智彬は「ぁっ、んっ・・・ふぅっあっ」と喘ぐ。

その間に宮は、スルッと智彬の衣を剥ぎ取った。



宮が私を褥に押し倒してから、すぐに体が熱くて堪らなくなった。
意志がとける・・・ダメだとわかっているのに欲しくてたまらなくなった。

目の前の宮という存在に欲情する。

宮からの口付けも、愛撫も、私の意志がとけて、体は嬉々として受け入れた。
これが『天上人』、殿上人を従わせる皇族の力・・・抗い難く、甘美で、恐ろしい。

私がとけて宮に呑まれてゆく・・・




淫猥な水音をピチャッと響かせて、智彬は奉仕していた。
そして宮も、自分のものを飲み込んで奉仕している幼馴染の髪を優しげにサラリッと撫でる。
この幼馴染は左大臣だ。
東宮である自分に次ぐ実力者。

その男に自分の欲を飲ませ、奉仕させていることへの支配欲が宮の体を熱くさせた。

「かつての光の君と呼ばれた御主のかような姿見るとは思わなんだ」

スルリッと黎明の宮の手が何もまとっていない智彬の背に伸びた。
ツツッと愛撫を施せば、震える体に笑う。

見上げてくる、幼馴染の漆黒の瞳に欲情して、何も言わず智彬の頭を掴むと突き上げた。

「ぐっ、うぅっ」

涙目になって苦しそうにする、幼馴染の姿にまた欲を煽られる。
もうそろそろだ。

「全て、飲み干すのだ、智彬」

そういえば智彬は拒否するように、「んっはぁつ」と唸る。

「馬鹿なことを・・・これは罰だ、智彬」

俺を裏切った、罰だ。
罰だ。
それは断罪のように、何度も耳に流される言葉。

「っ出すぞっ」

そして注がれる熱に、智彬は涙があふれて止まらなかった・・・


クチュッと宮にそこを舐められた。
腰を突き上げるようにうつ伏せで、宮の前に自身のそこを無防備にさらして。
なんてことだと思っていれば、宮は絶妙なタイミングで前もすってくる。

「ああっ」

おもわず喘げば、宮はニヤッと笑った。

「声は耐えるな、智彬」

ゆるりっと掻き混ぜる様に愛撫されて智彬の体は震えた。


そうやって念入りに身体がほぐされ、
後ろから殊更ゆっくりと犯される、宮は熱を焼き付けるように私を犯す。

ちゅっくちゅっと水音がして、宮を飲みこんでゆく自身の体を強く意識した。

「ぁっああっ」

そしてゆっくり、浅く浅く繰り返し揺さぶられる。
けれどそれは「抱かれる」側は初めてな私には身が震えるほどの衝撃だった。

「ふ・・・ぁん、宮っ、あっ・・・お待ちくださっ、」

「智彬、お前に抱かれたいと望む者も多く居たであろうに、俺に抱かれて、そんな声を上げるのか?」

宮に耳朶を舌で舐め上げられた。
ピチャッという軽い刺激なのに私の体は浅ましくも宮自身を締め付けて、耳も宮の低い玲瓏な声に犯されている気がした。そしてー…

「俺の子を孕むか?智彬?」

そう云われて、ゾクリッと体が震えた。
宮の精を受ければ、それも在り得た。

だが幼い頃から共に過ごし、親友である宮の子を授かるのは、どうしても自分の中で「違う」のだ。

私は宮の隣に立っていたかったのだ。
ずっと側に居たかった、支えていたかった。
涙が知らずに溢れて止まらなくなる。

「ふっ、宮っお許しをっ」

その懇願に宮は辛そうに顔を歪め、一瞬の後にニヤッと獰猛に笑うだけだった。
途端に突きが激しくなって、頭が快楽で真っ白になる。
皇族の「力」で、今まで感じたこともないくらいの快楽が脳髄をドロドロにとかした。



幼馴染の左大臣を抱き染めるなど、なぜ俺達は、このような縁なのだろうか。

俺が嫌いか、智彬。
俺を殺そうとするほどに。
そんなに俺が嫌いか、智彬・・・


俺を飲み込んで、快楽にとける幼馴染の体は正直だ。

乱れている、幼馴染の奥をグリグリと混ぜるように押し上げる、とビクビクッと腕の中の体が震えた。

その漆黒の瞳が見開かれ、漆黒の髪が振り乱される・・・なんて扇情的な光景。

「あああっんつううっ宮ああっ」

もっと俺を呼べ、智彬。

「っ、受け止めるといいっ」

ドクドクッと智彬の中にたっぷりと注いだ。
これだと本当に孕むかもしれないな、と思う。だがそれでも良かった。


何度も、何度も。

「力」が解放されている宮に抱き染められる。
宮の大きい欲を受け入れて、ぐちゃぐちゃに奥を突かれて、自分の知らない快楽が暴かれてゆく。
浅ましい自分を最も敬愛する宮の手によって暴かれて、宮の精が注がれるたびに、快楽という快楽で頭が真白になる。

「ふあああっあっ、んぅっ」

声がかすれて、でも声が我慢できない。
自我がなくなるような快楽の中で、繰り返し宮の声だけが聞こえるのだ。

「孕んでみればいい、俺の子を・・・
まだ誰も俺の子を生んでおらぬぞ。そなたが時代の帝の世継ぎを産むやもな」

囁かれる言葉に僅かに残った理性が悲鳴を上げて涙が溢れて止まらない。
それなのに体は浅ましく宮を求め、「力」に抱き染められたからか、宮に抱かれるのが嬉しいと感じて、宮が愛しくて、ぐちゃぐちゃにして欲しいって思っている「虜」の自分も感じていた。


これが幼い頃からの淡い恋心故か、判別は今はつかない・・・


彩なす空、
貴方と共に在れれば・・・私はそれで良かったのです。
貴方は私にとって背伸びしても、手を伸ばしても届かない天満月でした。


そして私の知らない所で運命が回ろうとしていた。

「皇族への反逆は死をもって償うのが慣例」

天幕の向こう側で、帝が言った言葉に近衛府長官が頭を垂れた。




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