閑話

右大臣智彬は死刑となったと宣言され、私は遠縁のものとされ、帝の大奥に攫われるように入れられた。
そして入れられたその時に、帝に『抱き染め』られることになろうとは思っていなかった。

「面をあげよ、智彬」

玲瓏とした声を受けて、ゆっくりを見上げる。
何度も謁見の間などで見てきた帝の姿。
だが平伏する私の体は震えていた。

・・・当然だ、何故か帝は皇族だけが持ちうる、人を隷属させるその力を解放していたから。
側にいるだけで理性がドロドロに溶け出すのが分かった。

ゆっくりとした動作で帝が屈んで、面を上げた私と視線を合わせてきた。

黎明の宮と似た、けれど決して違う面立ちで見つめてくる。
私の顎をその手で優美にすくって端正な顔が近付いてくる。
私は陶然と帝からの口付けを受けた。

触れるだけのもの・・・けれど理性が溶け出してクッタリと帝に倒れ掛かるのを帝は気にする風でもなく私をそっと抱き上げ閨に向かうのを私は快楽にとけた頭で何故と、しか考えられなかった。

ゆっくりと禁色である紫の褥の中に降ろされて・・・帝は私に覆い被さった。

「東宮のことなど考えられぬよう・・・余の全てで抱き染めてやる、智彬」

そして獣のように激しく口付けられた。
そこからは嵐のような快楽に・・・ただ流される。
緩く下袴の紐が帝の手によって引かれて、するすると単がほどかれてゆく。
宮に抱き染められた智彬ですら、帝の持つ圧倒的な力の上にあっけ無い程、簡単に体は開かれてしまった。

宮を受け入れた場所に、帝の熱い欲望を受け入れる。
兄弟である二人に抱かれるなんて・・・考えてなかった。

「何を考えている?」

その瞬間に結合部からクチュリッと音を立てて帝の欲がギリギリまで引き抜かれる。

「あぁっ、んっうっ・・・あっもっと・・・」

思わず寂しくなってねだると、帝は一瞬、瞳を見開いたかと思うと、激しく奥を突かれた。
グチュッ、パンッ、パンッと体がぶつかる音。
私が浅ましく帝の欲を食べている水音が絶えずして、頭が真っ白になった。

そして注がれる帝の熱に自分が耽溺するのがわかる・・・

「智彬・・・そなたは余のものだ」

額に受ける口づけが暖かい、体に注がれる熱が熱かった。


そして智彬は夜毎、否、昼間であろうと構わず帝に抱かれた。
そして今夜も帝に着物を肌蹴させられ、後ろから貫かれながら帝は智彬の耳元で囁いた。

「黎明の宮は、そなたがおらぬ故に加減が悪いらしい」

帝のその言葉に思わず、智彬は息を飲んだ。
けれど帝が、そんな智彬の反応を逃すまいと、つぶさに見詰めていて、
逃がさないと、言われているような帝の思いの深さに息を飲む。

「そ、うでございますか」

帝の手が激しく突き上げようと腰に伸びるのを、緩く拒んでもグイッと引き寄せられて逃げ場が無い。
兄として黎明の宮に似た、意志の強い端正な顔がジッと智彬を見詰めている。

「そなたを染めてやろう、余だけの色に」

「まっ」

待って下さい、という言葉は下からの激しい突き上げで言葉に出来なかった。
帝に抱かれ慣れた体が甘く疼いた。

「ああっんっ、やぁっ」

羞恥と悲哀で頬が赤く染まる、その姿を見て帝は言葉を紡ぐ。

「余はそなたが欲しかった」

切れ者と評判の左大臣・智彬は東宮・黎明の宮の後見に力を注ぎ、二人並んだ姿は天満月と三日月が並んだ「明けの時」と云われた。

何より、腹を割って相談している二人の姿は帝には眩しかった。
一人、孤独の中たった一人、至高の位にいる。
欲しくて堪らなくなった。欲しかったのだ、ずっと、ずっと。

「そなたが欲しくて堪らなかった」

その言葉と共に噛み付くように口付ければ、腕の中の体は幾分か驚いたように固まる。
それを口付けでほどかせてゆくのが、帝には心地よかった。
何度も、何度も夜毎抱いた。

あぁやっと、そなたを、この手に。

「そなたを我が正妃にしてやろう智彬・・・いや・・・『藤壺』の宮」

紫宸殿の一室である『藤壺』を与えると、そう帝は囁いたのだった。




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