この学園で純血種なんて数えるほどしか居ない。
だがその一人・・・学園の理事長を務める黎明雨龍、風紀委員長・黎明戒斗の叔父にあたる、彼は学園で薫った純血種の力の波動に笑った。

艶然と。

「まったく若いね・・・」

彼は遠い昔、気が遠くなりそうな昔に、半身を亡くした。

『お前の半身は俺だろう』

漆黒の瞳に薫るような色香を放っていた幼馴染。
彼を殺したのは紛れもない自分だった。

遠い昔の話。

「真月・・・」

その名は真夜の先代・・・久遠家当主の名だった。


場は変わり食堂では、真夜がその言葉を月ノ宮に言い放つと、周囲は静まり返った。
それが誰もが何を意味するか知っていたからだ。

最初に行われたのは月ノ宮の「ハーレム解散宣言」。
次が純血種、この場合は真夜だが、呼び出しという名の「精査」の段階に今、入っているのだ。
全て元老院が定めた「ハーレム解散」の流れに沿っている。

今夜「精査」手続きが踏まれると、この場に居る誰もが認識していた。

故に皆が固唾を呑んで生徒会長と生徒会副会長の緊張を孕んだにらみ合いを見詰めている。
先に視線を逸らしたのは後ろ暗い月ノ宮の方だった。

「わ、かりました・・・今夜伺います」

「ん」

労うように傲慢に頷いた真夜、彼にはそれが許されているが、そのまま背を向けた。
そして後ろの副会長であり伯爵家の男に言葉を紡ぐ。

「・・・厳しくなると思えよ」

「わかっています」

二人の言葉に毬藻もとい日向だけが、「どうしたんだよー」と言ってきた。
それに月ノ宮が苦笑しながら「いえ良いんですよ、蓮は気にしなくて」と言っているのを真夜は苦々しい思いで聞きながらも歩みを止めることは無かった。

武威が戒斗を牽制しながら側へつく。

ゆっくりと通り過ぎる、その時に真夜も戒斗も互いが互いを張り詰めるほどに意識していると気付いていた。
果たして通り過ぎる時に戒斗は口を開く、

「三人以上の「精査」は必要だろう」

「今夜は俺だけで良い」

だが戒斗はクツリッと笑う。

「だが法によって俺をお前は拒めない…俺も行くからな」

「・・・」

武威が無言で圧力をかけているが、それに屈するような男ではないことは確かで、真夜は「好きにしろ」と言って、今度こそ食堂を後にしたのだった。

するべきことは、まだ山済みであった。


食堂から憧憬の視線を振り切るように、磨き上げられた廊下に出てきて、
武威と二人っきりになると足音がコツンッといやに反響する音が真夜の耳を打つ。

そして背後の武威が、辛そうに拳を握り締めるのも、彼がゆっくり真夜が抗える速度で背後から掻き抱くのを…何もかも真夜は理解していた。

そして武威は真夜をぎゅうぎゅうと抱き潰すように抱き締めると、そのまま壊れ物のを運ぶように抱き上げて、歩き始める。

「・・・どうした」

周囲に人はいるが、生徒達もそれが生徒会長と体育委員長の主従と気付けば、サッと視線を逸らした。

眩しすぎる。

そんな周囲に頓着する事無く、主である真夜は狗とは語弊があるが、ハーレムの花婿の中でも筆頭ともいえる武威の頭をくしゃりと撫でた。

「・・・」

無言で武威は足を速める、彼が向かっているのは彼等主従の拠点ともいえる生徒会室だ。

「おい、答えろ」

今度は真夜は両腕を武威の首に回してギュウッと抱き締めてきた。

「武威?俺の花婿だろう、お前は?」

耳に囁きかける自らの主の艶を纏った声に、武威の体が震えるのを真夜は感じた。

「・・・」

けれど無言で武威は真夜を抱えなおす。
真夜はふむっと顎を武威の肩に乗せながら『怒らせたか?』と思った。

はたしてそれは正しかった。

武威は、そのまま足早に磨きぬかれた廊下を通り、エレベーターに乗り込み五階へ到着し・・・そのまま生徒会室の扉をバァンッと『力』で開け放つ。

そして武威の眷属である蝙蝠たちが申し訳ないように扉を閉めるのを真夜は武威の肩越しに見ていた。

また生徒会室から続く扉が、バァンッと『力』任せに開けられて・・・真夜はそこへ投げ出された。

正確には仮眠室のベッドの上に投げ出された。
そして目の前には自分の『花婿』・・・武威がすぐに真夜に覆いかぶさって来た。

切羽詰ったかのような、本能を剥き出しにした紅の瞳と間近でかち合いながら・・・端正な男らしい顔立ちが近付いて。
真夜は武威に唇を奪われた。

「んっぁっ」

最初は貪るように押し付けてきた武威が真夜の脇腹を撫でると、「ふぁっ」真夜は思わず口を開けてしまう、そこを武威の舌がクチュリと入ってきて思う様に真夜を蹂躙した。

「うっんっぁっ」

クシュクシュヌチュと水音が響く、淫猥な音。

「つっうっ」

息も声も唾液も何もかも食い尽くされるように口付けられる。
脇を撫でていた武威の手が明確な意思を持って真夜の体を愛撫する、その度に体が快楽に震えた。

「真夜さまっ、真夜っぁっ」

縋るように真夜を口付けの合間で呼ぶ声。
けれど武威らしくどこか凛とした強さが残っていた。

「あっぁっ武威っ」

クチュッと舌が吸われて、愛撫され、銀糸を繋ぎながら二人の口付けが終わりをむかえると、欲情に塗られた二人の真紅の瞳が間近で視線として重なった。

そして武威は泣き笑いのような表情を見せると真夜に言った、

「貴方を時々、殺したいほど喰らい尽くしたくなる・・・」

それは供血の一族にとっては最上級であろう、花婿の告白だった。
真夜はニヤリと笑う。

だが何も言わない・・・
その傲慢ともとれる姿に、だが武威は陶然と酔うのだ、この純血主たる主に・・・

「抱き潰してやりたい」

この愛しくも狂おしい主を。




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