『仲裁』
だがまたしても毬藻の言葉に反応したのは周囲だった。
俺の背後で言い争っていた筈の戒斗と武威が声を重ねるように、

「「ふざけるなっ!」」

と叫んでくる・・・仲良いな、言ったら怒りそうだが。
俺は毬藻に駄目もとで聞いてみた。

「どうしたら、そうなる?」

事故だろう明らかに。

「いいよっ!照れんなって!」

だが毬藻は顔の前で手をブンブンと振りながら、そう答えた。
もはや俺は呆れた視線を向けるしかない、会話すら出来ないとは、どういうことだ。

俺は毬藻に告白もしてない。
事故で唇がぶつかって、何故俺がコイツを好きという思考に飛ぶんだ?

だがこうしている間も、この食堂を覆う空気は悪くなっていく。

というのも毬藻が俺にひたすら話しかけるからだ。

「そっか、オマエがそんなに俺のこと好きって気付かなかった」
「でもお前カッコイイよな!」
「で、でも、かっ勘違いすんなよっ!」

間間で月ノ宮が突っ込みいれてるが、役目を果たしていない。

どろりっと空気が澱んでいくのが分かる。
この食堂にいる俺のハーレムの花婿達、そして目の前の月ノ宮、背後の二人・・・何か切っ掛けさえあれば、はじける様な危うさを孕んだ気配を纏っている。

そしてその狂気の中心は・・・毬藻。

・・・何だこれは。

ため息を零して。

俺は、とろりっと『力』を発動させる。


俺の足元の闇が一瞬にして広がり部屋を走り抜けた。
机の影、椅子の陰、ありとあらゆる影が意思を持って俺を中心にして部屋を縦横に駆け回る。

同じ純血種である戒斗も俺に気を張っていなかった為か造作も無く、俺の『支配域』が出来上がる。
それはまるで蜘蛛の巣のようだ、と思う。

その闇の中で、さわりっと甘美な血の香りが立ちこめる。
吸血鬼を陶酔させる俺の血を、力を、濃厚にこの『支配域』に流し込めば・・・力弱い者から膝を屈した。

「つぅっ」

武威が渇望するように腕を抑える。

「これはっ」

月ノ宮が顔を掻き毟る。

「やり過ぎだっ」

だが純潔種たる、黎明戒斗だけは悠然と立っていた・・・彼の瞳は真紅であったが。

その言葉に俺は振り返り、艶然と微笑む。

「一触即発で、人間を襲おうとしていた吸血鬼がなにを言ってる」

これは喧嘩の仲裁だ。

唯一、『人間』のハンターである毬藻だけは、よく分かってないかのように首を傾げていた。
俺はそれに再び溜息を零して、一瞬で『支配域』を解き、息を吹き返したかのような月ノ宮へ向き直った。


「月ノ宮、話がある・・・二人っきりで。」


今夜、教会へ来い・・・




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