夜の審判

静謐な空気が夜の教会を包み込んでいた。
ステンドグラスが月明かりに鮮やかな色彩を放っている。

真夜が一歩教会に入ると、目の前で十字架が傾いて逆さ十字となる。
夜はヴァンパイアの時間なのだ…。
そして夜を支配する頂点こそが純血種であるヴァンパイア…真夜だ。

だがこの日の夜は教会にあつらえられた重厚な木の長椅子に座る人影があった。

真夜はコツリッと足音を鳴らして、頓着することなく聖壇の前へ進む。
すると真夜の血が騒いで、フッと視線をめぐらせると黎明戒斗が佇んでいた。
彼の姿にさわぐ胸を抑え込んで、真夜は言葉を紡ぐ。

「さて始めようか、月ノ宮…」

さきほど長椅子に座っていたのは、伯爵家・月ノ宮貴弘。
彼は凛と顔を上げた。

「わかっています」

純血種である真夜を直ぐに見つめる瞳に真夜はくつりと笑みを浮かべる。
決して嫌いではなかったが、仕方がない禁忌をおかしたのは月ノ宮なのだから。

「容赦はしない」

その言葉を紡いだ途端に真夜の足元から闇が生まれた。
とろりとした濃厚な血の匂いをまとわせた闇は教会を包み、輪郭を失わせ、別の空間へ作り変える。
そうして闇のなかには三人だけが存在していた。




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