『主と忠犬』

この大陸では、長く人間が圧倒的弱者として吸血鬼に刈られる側であった。
吸血鬼は純血種を筆頭に完全なピラミッド型の権力構造を形成し、領地を有している。
その領地では人が街を形成し、その代表者たちが自分の所有者たる吸血鬼と交渉にあたる。
主に生贄の数などがそれだ。

吸血鬼ハンター協会は、人と吸血鬼の何百年に連綿と続く交渉の中で、弱者たる人間に少しでも力になれるように設立された力を生業とする者達の集まりだった。
吸血鬼を唯一屠れる純銀の武器を扱っている。
彼等が現れたことで、人の領主が現れ、吸血鬼と肩を並べるようになったのは、つい最近、百年程の出来事である。


そしてその吸血鬼たちの頂点に君臨する純血種の一人、久遠真夜は・・・生徒会室の奥に据え付けられた仮眠室で起きぬけの頭を軽く振った。
そして夕闇の落ちている誰も居ない部屋に、言葉を放った。

「・・・もう夕方か?武威」

するとスウッと影から人が現れ出で、ベッドの側に跪いた。
男らしい凛々しい顔立ち、漆黒の短めの髪・・・武威が吸血鬼の証たる真紅の瞳を真夜に向けた。

「はい・・・今日の昼の報告は生徒会室でなさいますか?」

「あぁ、ついでに紅茶・・・濃いローズヒップが良い」

自分のハーレムに下った力ある吸血鬼の武威へ真夜は腕を伸ばすと、跪いていた武威は立ち上がってベッドに横たわっていた真夜をそっと抱き上げる。
真夜の鼻孔を武威らしい爽やかな香水の香りがくすぐる。

「ついでにケーキも用意させましょう」

その武威の男らしい首筋に顔を埋めて、真夜はそこをペロッと舐め上げた。
自身の主の行動に武威がくすりっと笑う。

「くすぐったいですよ・・・貴方は血を飲まなくても良いじゃないですか」

それに真夜は更に武威の首を甘噛みした。

「お前に血を吸われたい奴は沢山いるだろう・・・武威。」

武威は真夜の言葉に立ち止まる。
純血種のすぐ下の伯爵の地位を持つ武威の家は、治める領地も広く、当主も道を知る領主として名高かった。
言外に俺の下について良いのかという言葉を感じ取り、武威はけれど微笑む。

「そりゃあ俺に血を吸われたい奴は沢山いますよ。」

玲瓏な声であっさりと頷いた。
だが今度は武威が真夜の首筋に顔を埋めて、そこを舐める。
ピチャッと水音がした。

「でも俺自身が貴方の血が飲みたくて堪らなかった・・・貴方だけだ、俺が本気で欲しいと想ったのは。」

雄の狩人の欲望が生々しいほどに真夜の熱を煽った。
愛を囁くように、真摯に囁かれて・・・真夜は瞳を閉じた。

「いつか貴方を俺だけの者にしますから。」

自分のハーレムに入る時に、武威が言った言葉を思い出す。

『誰よりも貴方の側で、貴方の為に仕えましょう・・・これから俺は貴方のハーレムの中で、貴方を落とすのに全力で挑みますから。』

家柄、能力の全てにおいてハーレムの花婿たちの中で、最も上に立つ武威は真夜を伴侶として求めてくる。
真夜は、まだ誰のハーレムにも属していないから・・・それも可能だった。
真夜の首に武威が牙をつきたて、血をすすった時に真夜が武威の者になる。
そう相手の牙を自身の首に付きたて啜ることを許すのは吸血鬼には『相手のハーレムに入る』意味がある。

武威は一途に求めてくる、忠節の臣だ。

真夜も、武威のことは嫌いではなかった。

実際に、そうやってハーレムから伴侶になった同士は沢山いる。

ただ・・・同じ純血種である黎明戒斗を思い出して、心が騒いだ。

そして真夜は武威の腕の中で顔を武威の胸に預けて、ほんの少し彼に甘えたのだった。




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -