動向

***
音を立てて閉まる重厚な扉を背にして、生徒会長親衛隊“副”隊長・嶋田雄大は詰めていた息を吐きだして廊下を歩きだした。
彼の脳内は様々な調整や、伝達のことで溢れているようで、知らず彼は誰も居ない廊下に言葉を零していた。
「会長がまさか自分から隊長職をするなんてな」
そんなことは前代未聞だ。
少なくとも長く伝統が続く、この学校始まって以来のことであることは確かだ。
これが親衛隊に、どう影響するのかまだ分からない。

だが考えるべきことは山程あるのにさっき見た光景が視界に焼き付いている。
そこで一度、嶋田は瞑目した、ざわざわと騒ぐ胸を抑え込む…あのネクタイを着けた会長の姿。

(あのネクタイは本当は俺が会長の元から奪う筈だったんだ。けれど仕方がない。まだ機会はある。)

そして嶋田はゆっくりと生徒会室を後にしたのだった。

***

時と場所を変えて、1年Aクラスでは2年Sクラスの緋酉が居ることで教室は何時になく落ち着きがなかった。
昼休みを終えて授業に入っても柳沢から離れず教室の後ろに緋酉が佇んでいるせいだ。
教師たちも一生懸命に授業を行っていはいるが、緋酉の方をチラチラと見てくる学生を注意できずにいる。
また緋酉も「前を向きなさい」と声高に注意できるほど、このクラスに馴染んでいる訳では無かった…ただ教室の後ろで佇んでいる。
5,6時限目をそのようにして過ごし、ホームルームが先生の努力によって早めに終えられ、やがて1年A組の教室には4人だけが残される。

すなわち不良で恐れられる柳沢の同室の金髪の皆藤と、親衛隊持ちのスポーツ特待生の南方。
そして転校生・柳沢 雄飛と緋酉 慎だ。
柳沢は自分の席に座り、その前の席の机の上に皆藤がドカリッと腰をおろし、その横に南方が佇んでいる。南方の対面の位置に佇みながら緋酉は口を開いた。

「悪いが放課後は俺は親衛隊と話し合いをすることになっている」

冒頭にそう切り出すと、さもあらんと皆藤と南方は頷いた。柳沢だけ「そうなんですか」と状況をよく分かってない返事をする。
それに皆藤が「おい、大丈夫か?わかってるのか”保護生徒”」とからかえば、
柳沢は隠すこともしなくなった整った容貌を軽くかしげながら「たぶん」と応えた。
それに皆藤と南方と緋酉に何とも言えない間が出来る。

三人の中で何か共通の認識が生まれて、緋酉は皆藤と南方に向かって今後の流れを伝えた。

「俺が柳沢を迎えに行くまで、元の部屋で待機させててくれ、くれぐれも一人にさせない様に」
「わかってます」と南方が頷いて、「じゃあ部屋移動の為に最低限の荷物まとめておくっすね」と皆藤が言葉を続ける。
よっと声を出しながら机からおりて「ほら行くぞ」と仲間をせかす皆藤を見ながら緋酉は彼は頭の回転が早く、人は見かけによらないものだと思った。フッと見詰めていると視線を感じたのかバチッと皆藤の不良じみた眼光の鋭い視線が合う…だがそれは直ぐに皆藤の方から逸らされてしまった。
「ほら早くいくぞ雄飛っ」
そして皆藤と柳沢が連れ立って教室を後にしようとしていて、それが微笑ましく笑う。

「貴方でも、そんな顔をされるんですね」

「えっ」
不意打ちに声をかけられてスポーツ特待生の南方に視線を向けると南方はジッと自分をみていた。
その真っ直ぐな視線に戸惑う。
「いつも遠くから、眺めてるだけだったので…
こんな間近で貴方を見れるとは思ってませんでしたよ、総代。」
確かに学年も、なにもかも接点が皆無な自分と南方だ。
こんなこともなければ互いに一言も言葉を交わすことなく卒業しただろう。
「俺だって普通だ」
不思議な縁を感じながら、そう返すと南方はクスッと笑う、目じりを和ませた姿は途端に精悍な彼を年相応に見せた。

「貴方が普通なら、この学校の全員が普通ですね」
「おーい、南方まだかよ」

そして南方は自分を呼ぶ皆藤の声に応えるように鞄を取ると教室のドアにいる二人の元へと歩いていった。

「じゃあまた後で」

そう一言を残して、やがて緋酉は教室に残りながら、本来なら言葉すら交わさなかっただろう後輩を思って不思議な感慨にとらわれた。親衛隊長として人の上に立っていたら出来ないことだ。
こうした他愛もない日常が堪らなく楽しくて、自然と笑みが浮かんでいることにも気づかなかった。





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