***

そして一人佇む蒼璽の物思いを切り裂くように生徒会室のドアをノックする音が響いた。
生徒会役員ならば、そのまま入室する筈だ。
蒼璽がドアに視線を向けると、

「会長様、親衛隊副隊長、嶋田雄大です。」
低い声が響き、途端に蒼璽の眉間に皺がよる。
親衛隊副隊長がなぜこのタイミングで現れたのか分かっていたからだ。

「入って宜しいでしょうか」
それは確認ではない、強要だ。
唇を噛みしめる。

「入れ」
苦々しい気持ちで声を絞り出すと直ぐに失礼しますと言って生徒会室に入ってきた男は、生徒会室の惨状に僅かに瞠目したもののすぐに平静を取り戻したようだった。
剣道部のエースだけあって精神が強い、体もしっかりと筋肉がついている。
またそれでいて凛と整った顔立ちは男らしい。

どう考えても″抱かれたい″ランキング一位のオレの親衛隊にいるような奴じゃないだろと毎回この顔を見れば思う。
むしろ嶋田に抱かれたい奴は、この学園に多くいるだろう。
だがそんな声すら嘲笑うように緋酉もこの嶋田も俺の親衛隊にいるのだ…。
まぁ嶋田は俺の一つ学年が下だから、きっと緋酉に憧れて俺の親衛隊に入ったのだろうが。

″緋酉″と名を想うことすら辛い。

だが、そんな蒼璽に頓着することなく嶋田は目の前に立ち、口を開いた。

「緋酉隊長が親衛隊総代として生徒保護期間に移行したので、
代わりに俺が親衛隊長として就任します。
そのご挨拶に参りました。」

「…知ってる」
そんなことは知ってるさ。
ただ蒼璽はさっきからずっと握り締めていた、緋酉のネクタイに力を込める。
だが今、蒼璽はどうしても親衛隊長を変える気にはならなくて、嶋田に向き直ると告げた。

「俺の親衛隊長は空きのまま、通常通り隊を運営しろ」
嶋田は僅かに瞳を伏せ、やがて口を開いた。

「会長、生徒保護の期間は決まっていません。一ヶ月か半年か一年か…それは誰にも分からない。」
嶋田は暗にそれだけの期間、生徒会長親衛隊という集団にトップががいないことが危ないと告げていた。

それが分からぬ月宮蒼璽ではない。
彼が生徒会長たる所以は、その容姿ではない…その稀有たる有能さにある。
月宮蒼璽は、ゆっくりと自分のネクタイを緩めて解くと、それを生徒会長を机の上に置いた。
そして手に持っていた緋酉 慎のネクタイを首に巻き付けて、ゆっくりと絞めた。

孤高の生徒会長が、誰かのネクタイを着ける様など誰も見たことが無かっただろう。
それを目撃していた嶋田は幾分呆けたように、けれど逸らさずに見ていた。

「これからは俺が親衛隊を統率する。」

そして学園に君臨する生徒会長は一歩を踏み出す。
凛と告げられた言葉に、嶋田はただ返事をすることしか出来なかった。
親衛対象が自ら隊長職を兼任する。
それは後に″月宮モデル″と称され、後の生徒会と親衛隊の姿に多大な影響を及ぼすのだが…今は語る時ではないだろう。
かくにも此処に、生徒会長親衛隊は岐路に立ったのである。





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