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「すまない、待たせたな」
緋酉が第二会議室を訪れた時、すでにメンバーはそろっていた。重厚な木の机に座る生徒達。各生徒会役員の親衛隊長と会長親衛隊副隊長の嶋田だ。皆の視線が一気に緋酉へと集まる。このように彼等が一堂に会するのは珍しく、おそらく何も知らない生徒がドアを開けたならば息を飲んで退散することだろう。
「構わない、そんなに待ってもいないからな。」
始めに返事をしたのは副会長の親衛隊長・|田辺 雅明《たなべ まさあき》。眼鏡を押し上げて怜悧な美貌からは何も読み取れない。この二人は3年だ。

「めんどくさいけど仕方ないね。あっちゃんの為だしね。」
というのは書記の親衛隊長・|高坂 薫《こうさか かおる》。その名の通り男の娘の容姿をしている。あっちゃんというのは、|相場 明彦《あいば あきひこ》という無口な書記の名前から取ったらしい。

「めんどくせぇ」と呟いた不良じみた茶髪にピアスの生徒は庶務双子・大和田 和樹と正樹の親衛隊長・森 尚太だ。彼は口でも行動でも本当に片手間で親衛隊長をやっている。

また武士のように寡黙な男は|前木 廉《まえぎ れん》。会計・羽場 海斗の親衛隊長である。彼は視線で緋酉に空いている席を示して見せる。
そのまま緋酉が席につくと、嶋田が隣の席から静かに黙礼してくるのを視界におさめた。そして緋酉はおもむろに口火を切った。
「では俺が保護生徒期間に移行したことでの親衛隊長職の引き継ぎと、今後の親衛隊の動きについて会議を始めたい」
「ちょっと良いですか」
だがそれはすぐに嶋田からの言葉で遮られる。
「なんだ嶋田」
「実は親衛隊長職なのですが・・・月宮会長に就任のご挨拶に伺ったところ断られました。」
途端に副会長の親衛隊長の田辺 雅明がその眼鏡の奥から鋭い視線を走らせた。
「なんだと?お前以外に誰が緋酉の後を治めるというんだ。ある程度の混乱は予想されるんだぞ」
嶋田は「そうですね」と言いつつ、ちらっと横にいる緋酉に視線を向ける。緋酉が首をかしげるとフイッと逸らされてしまったが嶋田はさらっと何でもないことのように言った。
「どうもご自分で親衛隊長職を行いたいそうです」
その言葉で一気に会議室の空気は冷えた。親衛隊そのものの姿が根底から変わるだろう月宮の考えをだが隊長たちは否定しなかった。
「アッハハッ、へぇそう面白いじゃん」
まず反応したのは庶務の親衛隊長・森 尚太だ、彼は楽しそうに八重歯を覗かせている。
「なかなかどうして生徒会なんか糞だとか思ってたけど良いねぇ会長サン」
面白いと言う彼の言葉を他の隊長たちも否定しなかった。親衛対象が治める親衛隊。それが上手くいけばこの上なく安定するだろうとわかっていたからだ。故に会計の親衛隊長である前木 廉が「ひとまず様子を見よう。」と言えば隊長たちは頷いたのだった。

緋酉が保護生徒期間に移行中は嶋田が生徒会長親衛隊に就任というのは保留となった。
一人また一人と親衛隊長たちは会議室を後にする。そんな中、前木 廉が緋酉の前に立った。そして抱えていた鞄から一冊ノートを出すとさし出した。
「今日の5・6時間目のだ。」
「ああ悪いな」
「いや」
そしてクシャリッと緋酉の頭をひと撫でして前木は部屋から出て行った。
「随分、前木隊長と仲が良いんですね。」
「嶋田か・・・どうしたんだ」
最後まで残っていたのは嶋田だった。何か相談があるのだろうと思って声をかける。おそらく他の親衛隊長もそう思って気をきかせた節があった。
「緋酉先輩」
嶋田は前木 廉が撫でたことで幾分乱れた緋酉の髪を丁寧に手櫛で直している・・・緋酉は自分を”隊長”と呼ばなかった後輩のするがまま彼の言葉を待つ。すると嶋田は意を決したように口を開く、

「貴方はもう生徒会長親衛隊に戻る必要はありません。親衛隊長の任は月宮会長がご自身で継いだ。親衛隊を会長が掌握するのも時間の問題でしょう。」

それに緋酉は笑ってみせた。たしかにそれは簡単に思い描ける未来だ。数週間で会長は自分の親衛隊を掌握するだろう。そうすればきっと其処に自分が戻る必要はない。仕事は全て会長とこの有能な副隊長とで回る。けれど、それでも。

「この先の事は自分で決める。」

月宮会長へ向けた恋は簡単に捨てられるものじゃないのだ。そうして笑ってみせた緋酉にぐっと何かを耐えるようにして嶋田は俯いた。

「俺は貴方のそういう所が嫌いです」
「そうか・・・悪い。相談がないならこれで失礼する」

悪いの言葉が、これから部屋を出る事に対してのものなのか。それとも嶋田を不快にさせたことへの謝罪なのか嶋田には分からないが。緋酉の謝罪はより深く嶋田を居た堪れなくさせた。
そして閉じられ誰も居なくなった会議室で。

「・・・俺を見てくださいよ。会長じゃなくて俺を。」

その呟きは誰に聞かれるでもなく、消えた。




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