マーキング(お前は俺のもの)*FIN*

「警告は何の為にあるのか知っているのか?相手の為とそして自分の為だ。」

生徒会会計の羽場海斗がその現場を見たのは偶々だった。
人通りが少ない家庭科室や美術室が立ち並ぶ特別棟で、以前からしつこく誘いをかけてきた奴の相手をしてやって、ついでに殴って憂さを晴らし生徒会室に戻る廊下で凛とよく通る声が聞こえたのだ。
これは制裁臭いと思い、あわよくば親衛隊員の弱みでも握ってやろうかと思って声のした空き教室を窺えば…そこにいたのは平の親衛隊員など足元にも及ばない大物だ。

親衛隊総代・緋酉 慎。
生徒会長の親衛隊長でもある彼がこんなところに居るなど決まっている。”仕事”をしているのだろう。
だが彼以外には一人の男子生徒がいるだけで、どうやら”制裁”ではないようだった。
生徒会長・月宮蒼璽の親衛隊が劇的にかわった所以はここにある。
以前、緋酉 慎が親衛隊長に就く前は、親衛隊は月宮が喰い散らかした人間を際限なく”制裁”した。
緋酉の前親衛隊長が会長に一度だけ抱かれたこともあり、会長が他の人間に手を出すと嫉妬に狂い職権を乱用したのだ。
流石に会長も自身の親衛隊長の本性にうんざりとしていたが、目立って注意しなかった。
それを周りの人は無責任だと言うのかもしれないが海斗には会長の気持ちはよくわかる。注意したら、もっと悪化する可能性もあった上に、会長を偏愛する親衛隊長が今度は感情を拗らせて会長に牙を剥く可能性すらあったからだ。曲がりなりにも自分たちより学年が上の親衛隊長だし、あと数か月もすれば卒業する相手だ。その時の会長は特に親衛隊に何がしかの期待など抱いていなかったように思う…あえて言葉にするとしたら会長は親衛隊に無関心だった。

だが会長であっても色々とストレスも、その他も溜まる訳で…そして喰った相手はずっと”制裁”され続けた。

あの頃の学園はまるで空気すら澱んでいる様な雰囲気が流れていた。
”悪”は伝染すると、あの時に学園の者たちは知ったのだ…暴力と制裁という恐怖が学園を支配して、それに抗うものはおらず、暴力と制裁に追従し保身にはかる者や、暴力と制裁に虐げられる者が溢れていた。

だがその絶望的な状況を″緋酉 慎″という人物は鮮やかな手腕で治めてしてしまったのだー…

秋になれば一年であったのにも関わらず副隊長に指名され、そのすぐ後に隊長として後継に就くと…前会長親衛隊長を糾弾し、退学にまで追い込んだ。
そして”制裁”され続けていた者達を助け、逆に不当に”制裁”し続けていた会長親衛隊の身内を切り捨てて処断したのだ…その間、一ヶ月にも満たない。
あの月宮 蒼璽であってすら認めざるを得ない有能さを緋酉は示したのだ。

本来であれば生徒会・風紀入りが当然だった彼を会長親衛隊が抱えていたのは、そこに彼が果たすべき役割があった天の采配のようにも海斗は思えたものだ。

***

「羨ましいな」

つい海斗は口にする。自分だって緋酉のことは気に入っているのだ…自分の親衛隊にいたら色々お近づきにもなれただろうにと思わざるを得ない。
その間も緋酉と男子生徒の扉越しの会話が進んでいく、どうやら会長親衛隊の中で少し抜け駆け的に会長に近付こうとしていると見られた親衛隊員を緋酉が注意し、学園生活の本分を全うしなさいというお話のようだった。そっとしゃがんで扉に背をつけながら話を聞き思ったのは、お優しいことで…という皮肉った考えだった。
緋酉がここに相手を呼び出したのもきっと他の生徒会長親衛隊員に、相手が緋酉に注意された”というレッテルを貼られないための予防線だ。
ここではもう緋酉 慎は影響力が有りすぎる。
彼からの注意を受けるってことはそういう目で見られる”ということなのだ。
相手もそれが分かっているのだろう、有難うございますを連呼している。

これで話は終わりだろうと海斗も腰をあげようかと思った矢先…話は思わぬ方向へ転がった。

「でも俺が会長を好きだからうんぬんは違います、純粋に会長に近付く人間を減らして隊長の負担を減らしたかっただけです」

「そうなのか?」

海斗には、この会話だけで生徒がなにを言いだすのかが分かってしまった。だてに場数は踏んでいない。

「俺はっ緋酉隊長が好きなんですっ!」

ドッガタガタンッ!!
何かがぶつかる様な音と、机が倒れる甲高い音が教室に響く。
「隊長っ緋酉隊長っ」
切々と訴える相手の声に海斗の中で何かが鎖を引きちぎって解き放たれる音がした。

***

ガターンッっとわざと大きな音をたてて空き教室の扉を開け放ってやれば、思った通り緋酉は押し倒されている。その光景に酷い暴力的な感情が溢れ出そうになる。ドクドクッと血が騒ぐ。
俺の雰囲気を察したのかもしれない緋酉 慎に圧し掛かっている男子生徒はビクリッと体を震わせて怯えたように顔をあげた。不愉快だ。
けれど緋酉も驚いたように俺を見ていることで少しだけ胸の中の気持ちを落ち着かせる。

「あれーこんなところで逢瀬?いやいやーまさか親衛隊同士でくっ付くなんてー凄いねー」

わざと口調を軽く紡いでやったが、脳内と口調の乖離からか…それは失敗に終わっている。
酷く怜悧に響く声だ。

「あっいやこれは…」
しどろもどろになる男子生徒の肩をグイッと緋酉が押しやる。こっちは冷静のままで流石と思う。
互いに思考を読みとるように視線がかち合ったことにゾクリッと体が震えて、つい自分で嗤ってしまった。
笑みを浮かべる俺に緋酉は眉を寄せる。

「盗み聞きとは行儀が悪い会計だ…君もさっさと教室に戻れ」
「…緋酉隊長」
縋る様な、恋情を滲ませた声で緋酉 慎を呼ぶ声は甘ったるくて殴りたくなってくる…媚びるネコは俺は大嫌いなんだよ。

「俺は戻れと言った…ちゃんと返事はするから」
「っはい!!」
途端に喜色を滲ませて立ち上がり、そいつは礼をすると後ろのドアから出ていく。
なぜ期待を持たせるようなことをするんだと、立ち上がる緋酉に問いただしたいような気も沸いてくる。
まさか”緋酉 慎”ともあろう男があの程度を相手にするっているのかよ。

「あんなのが好みなのかなー?緋酉隊長は?」

「…俺の好みなど貴方に関係ないでしょう」

取りつくしまもないとはこのことだろう。凛と男らしい美貌で生徒会会計である俺に一歩もひかず対峙する様は流石だ。だけど…そんなのは俺の感情を逆なでするだけだ。
「では」と言って去りかけて背を向けた緋酉。俺は素早く動いて、隙を見せた首に背後から腕を回して締め付けてやる。
「なっ」
驚いて呻く相手の体を直ぐ側にあった教室の机にガタンッとうつ伏せに押し付けてやる。そうすれば体格が同じぐらいでもこちらの方が有利だ。

「俺を怒らせない方がいい」

口調を本来のものに戻せば緋酉は目を驚愕に見開いた。
その反応が楽しくてクックッと嗤いながら、舌を彼の耳にピチャリと這わせれば腕の中の体はビクッと反応を返す…それにさっき吐き出したばかりだというのに体は高ぶった。
相手はそこら辺の尻軽ビッチじゃない…極上の男だ。

「抱かれたいランクの人間だからってさ?皆がみんなから自分はオスとして見られていると思わない方が良いよ」

言葉と同時に証拠とばかりに高ぶった下半身をグッと押し付けてやれば、緋酉は驚愕の表情を浮かべた。

「ハハハッその顔っ最高っ!」
享楽的で暴力的な俺の本性が沸々と湧いてしまう。
その間も緋酉は俺の腕から脱出しようともがくが、完全にマウントポジションをとられているのだ、いかな緋酉でも無理だった。
俺は舌を耳でなぶり、チュチュッと音をたてて吸い付くと熱をふきこむ様に囁く。

「抱いて、ここにさ間違って孕むくらい俺をたっぷり注ぎたい」
腰を疑似セックスのようにグリグリッと押し付けてやれば緋酉は怒りで顔を歪ませていた。

「それで抱き潰して…アンタを俺専用のメスにしたら最高に気持ちよさそうだな?」

「何を言っている…」
きっと緋酉 慎”には理解できないだろうって俺の予感はあたった…彼の表情には俺に対する嫌悪と侮蔑だけがあったからだ。それに苦笑を零すしかない…だって俺はこういう人間だから。
正しくて綺麗で、強い”緋酉 慎”には俺が分からないだろう。
理解されない事には慣れている。
そして俺は享楽と暴力的な本性を、甘いマスクと緩い口調で覆い隠して笑う。

「なんでもないよー冗談、冗談ーそしてこれが最後の悪ふざけねー」

そう言って、俺は暴力的な高ぶりと共に緋酉の首筋にガブッと噛みついた。「クッ」僅かに零れる苦痛の声。だけど加減なんかはしてやらない。思いっきり噛んで赤く歯型がついた首筋を満足して見下ろして今度はその刻印を舐め上げれば。

緋酉は「はぁっ」と甘い声で鳴いて…もっと苛めたくなった。
正直に最後までしたかったが…緋酉 慎に俺の痕をつけただけで今日は手をひくことにした。

別に嫌われたい訳じゃない。

ただ浮いた噂の無い緋酉が制服から見える位置に俺の所有印をつけていることを会長が知ったら、どうなるかなと酷く悪戯心は湧いたのだった。

*FIN*

果たしてこれはFINなのか←
リク消化:他者視点からみた総隊長の話。他生徒会役員からです。





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