「腰が痛ぇ…」
固い風呂場で抱く側とはいえ、ずっと下にいたから、惣一の腰や足やらが悲鳴をあげていた。
惣一は軋むような関節の痛みに眉を寄せつつ立ち上がる…するとたったそれだけの動作で濡れきった服は肌に不快に張り付き、関節もギシギシと痛むので…ますます眉間に皺を寄せる。
「わ、悪い…」
すると、側で所在無さげな声がした…黒琥だった。
先程、惣一を襲った黒琥は低体温症だった名残も消えて顔色も良く、反省したように風呂場に座り込んでいる。
意識が混濁して襲ってしまった″と苦しい言い訳をして正気を取り戻した弟に惣一がジッと視線を向けると、黒琥は惣一の反応を心配するように見詰めて…端っこに追いやられていた濡れきった毛布におずおずと手を伸ばして、自分の体を恥ずかしげに隠した…それは惣一が見たことも無かった姿だった。
無防備で、惣一を意識している姿…そんな態度に、思わず惣一は溜息を零す。
その些細な溜息にすら反応してチラッと惣一を見た後に項垂れる弟…それを視界の端に収めながら、やはり惣一の気持ちとして追いつかなかった。

今までの黒琥と違いすぎて毒気が抜かれるのだ。
これ以上、同じ空間にいると何かが全て変わってしまいそうで…仕方がなく、惣一は濡れた体のまま、風呂場を出ようと黒琥に背を向けた。
すると、「惣一っ…」クンッと何かに引っ張られる感覚、思わず目を見開いて黒琥を見やれば、弟が自分のスーツズボンの裾を引っ張っていた。
上目づかいで、先ほどの情事の名残を色濃く残す姿に思わず舌打ちしたくなる…分かってやっていたのだとしたら、とんだ策士だ。

「なんだよ…これ以上、なんか用があるのか?」
あえて冷たく切り裂くような声を出し、下から見上げてくる弟を睥睨してやる…だがそれでは黒琥は引き下がらなかった。

「腰とか痛いなら…惣一は風呂入らないのか?」
先程、惣一が零した言葉を覚えていたのだろう、お湯がはってある風呂へ黒琥の視線が彷徨い、言葉が続く。
「それって俺の所為だから…俺はもう出るから温まってくれよ」
優しい気遣いの言葉に惣一は今度こそ溜息を零す…一体、誰なんだよ、コイツは。
いっそのこと他人の空似と言って貰った方が納得もしただろうが…目の前にいるのは長年、嫌悪してきた弟だった…もう腹くくれと声がする。

「それよりお前は?」
「えっ?」
驚きに見開かれる弟の瞳に視線を合わせながら、惣一は言葉を紡ぐ。

「阿呆。低体温症だったのはお前だろうが…ここまでの俺の苦労を無駄にする気か?」
我ながら傲慢な言葉だ。けれど黒琥は惣一のその言葉に喜色を浮かべる。
あまりにそれが無防備で…惣一が自分を気にかけてくれたことが嬉しくて堪らないというように笑うから…何故か惣一も胸が熱くて堪らない気持ちになる。

惣一はそこで手を伸ばして黒琥の腕を掴むとグッと引き上げた。
力任せに引き立てられて惑う黒琥に視線を合わせながら、惣一は獰猛に笑う。

「おい壁に手をついて、中見せろ」
「えっ」
「俺のを入れたまま湯船に入るつもりか?…掻き出してやるから後ろ向け。」

やっと惣一の言っていることを理解したのだろう、黒琥の顔が羞恥に染まる。
けれど逆らったりはしなかった…従順に壁に手をついて惣一に背中を晒す。
鍛えられた背中の筋や、滴る水滴に煽られて、また高ぶってきた欲を思うままに突き入れたい気持ちを惣一は抑えつつ、壁にかかっていたシャワーヘッドを手に取り、屈むと、お湯をワザと最大の強さであてながら、クチュッと指で差し入れてやる。
クプッと先程、惣一が出した白濁が中から滴り落ちてゆく様は…信じられない程に、いやらしく、更に男の指にキュウッと吸いついてくる媚肉がまるで女のようだと思える程だった。
そのままシャワーのお湯を注ぎながら、グチュグチュッと指を掻き交ぜれば、精は掻きだされるだろう…
「ぁぁ…あっふぁぁっぁぁぁ…」
だがその間も面白いぐらいに腕の中の体は震え、惣一の唇にもクッと笑みが浮かぶ。
「感じるなよ…これは処置だぞ?」
そう念を押しながら、わざと指の本数を増やし、ペニスの裏側にある弱い場所を重点的に引っ掻き、グチュグチュと掻き回してやる。もう…精は出てこないというのに。
「あっ、ぁぁっはぁっ…ぁぁんっ…ぁぁ…あっ…」
女のように惣一の指先に翻弄されて快楽を拾い、また黒琥の体は快楽に溺れ始める。
ゆらゆらと揺れる体が惣一の指で自分を高める女の様だった。
これ以上やれば、もう言い訳は出来ないというのに、黒琥も惣一も高ぶっていた。

(頭のどこかで、正気の黒琥をもう一度、犯せば…戻れないと分かっている。
兄弟でヤルなんて…畜生に堕ちるのに…俺は。)
そんな惣一の物思いすらブチ壊すように・・・黒琥は紅潮し欲情した顔を背後にいる惣一に向けて囁いた。

「惣一…アンタが欲しい。」

「っ…阿呆が」

モラルも、憎悪も、全てこの瞬間、消えて…ただ目の前の男を征服して自分だけのものにしたいという劣情が惣一を支配した。手の中のシャワーヘッドがカツンッと床に転がって、あらぬ方を向いてお湯を流し続ける。
それをそのままに惣一は性急にズボンの前を寛げると、そのまま目の前の獲物の体を壁に押し付ける様にして腰に右手をあてて後ろから挿入した。

グチュリッ

先程の情交の名残で、水音と共に惣一のものを美味そうに飲み込んでいく黒琥。
一気に最奥まで突き入れて犯せば、脳髄からどろりっと快楽に染まる。
「…ぁぁぁっぅっぁぁ…」
「くぅっ…はぁっ…」
甲高い女のような声で淫蕩する腕の中の体、自分自身の味を教え込むように惣一が入口ばかりを突いてやると黒琥はハクハクと息をしながら「もっと」と強請ってくる。
「まだっ…駄目だ…」
そして惣一は上体を倒して、ゆっくりゆっくりと緩慢ともいえるような動作で最奥まで犯した。
じわじわと優しすぎる侵入に黒琥は涙を零す、もっと欲しいのに火が燻るような快楽は逆に甘い苦痛でしかない…そして惣一は全てを収めてハァッと艶やかな息を零すと、黒琥の肩口に顔を寄せ、

「お前…俺のものになれ。」とだけ囁いて、首筋をガリッと噛む。
「あぁぁっ」
途端にギュウッと中の惣一を締め付ける黒琥に、捕食者の笑みを浮かべて今度は噛んで赤くなったそこをピチャリッと舌で舐めあげた。
「俺のものになると…言えっ」
「ぁぁっ…っぁぁっ…」
惣一のペニスを女のように中で締め付けながら、黒琥は喘ぐ…とまたガリッと首筋を噛まれた。
また中の男のものを締め付けてしまい快楽に脳髄がとける。
元より黒琥に選択肢など無い…心も体も全て囚われているのだから。

「んあぁぁっんぅっ…はぁっぁぁっなるっ俺はぜんぶっ惣一の、だからぁぁっ」

「くっ…言ったな?お前、俺のものだぞ?…」

惣一は一度、クプンッとペニスを抜く、
そして「ぁっ…」と物足りなそうに微かな声を漏らす黒琥の体を起こし、今度は反転させると、黒琥の左片足を右手で上げると壁に押し付けながら正面から犯した。

グチュッッ
淫猥な音で男を食んだ其処を壊すような力強さで、今度は容赦なく…最奥まで欲望を突き上げる。
グチュグチュヌチュヌチュグチュンッパンパンッと肉と肉がぶつかり、絡まり、溶け合う音が風呂場に響いて、媚肉がめくれ上がっても、惣一は腕の中の獲物を責め続けた。

「っ…クッ…これが好きなんだろ?」
「好きぃぃっ…ぁぁっ…惣一ぃっ…好きぃっ…好きぃぃっんっ」
惣一の額からポタッと落ちた汗を、蕩けきった顔で、唇から覗く赤い舌で舐め取る黒琥の凄絶な色香に惣一は呻く。二人の間に挟まれた黒琥のペニスからは止めどなく精液がトプッと滴るのをそのままに、惣一は黒琥のペニスの裏側のしこりのような所を重点的に突き上げれば、悲鳴のような嬌声に変わった黒琥がスルリッと惣一の首に腕を回して、泣きじゃくる、

「ぁぁんっ離れたくないっ、もっとっ惣一っ…側にいてっ…もっとっ…ぁんっ…はぁっ…もっとっ…俺をアンタのものにしてぇっっもっとぉっ欲しいっ」
グチュグチュッヌチュッと密着した体からは淫猥な音が響き、もう繋がったところから溶けていくような快楽のなか…二人の境界すら曖昧ななかで自然と口付けあう。
クチュクチュッと互いの舌を絡ませて唾液を交換しあえば…互いが互いに気持ちが高ぶったせいか、一緒に達していた。二人の間で黒琥のペニスから白濁が放たれて、黒琥の中には、またたっぷりと惣一の精がドクッドクッっと注がれてゆく。
ピチャリッと中から零れ落ちた精液が風呂場の床に滴ったところで、二人はやっと口付けを止めて、互いの顔を見詰め…そしてまた暫くすると…どちらかともなく舌を絡ませ、口付けに溺れていったのだった。



あれから、時間にしてどれくらい抱き合ったのか分からないぐらい肌を重ねた…結局、湯船でも交わり、黒琥の腰が抜けたところで二人で風呂を出た。
脱衣所にいつも置かれている惣一が普段、風呂あがりに着ている替えの浴衣を二人で着て、惣一の部屋に二人で戻った、と言っても黒琥は惣一が抱き上げていたのだが…抱き上げて部屋まで運ぶ頃には、何故か腕にいる、この存在が…心の中で堪らなく愛おしいと思えた。

あれほど憎んでいたというのに…まるで誰かに仕組まれていたとでもいうような変化″だと思った。

僅かな疑念。
けれど泣きながら、謝りながら、好きだと…
全身で惣一を求める黒琥の存在は、嫌いではなかったのだ。



時分は深夜を回っていた。
あれから安心しきって眠る黒琥を部屋まで送り、惣一は風呂に置いたままになっている服を取りに行こうかと浴衣姿で渡り廊下へ出る…本家の中では大体が和服だ。

惣一が無垢材で出来た板張りの廊下を進めば軋んだような音をたてる。
だが…人通りもない筈の夜半の薄暗がりに人が佇んでいるのが見えて、惣一は訝しげに立ち止まった。

「誰だ、其処にいるのは」

誰もいない筈の時間帯。まして此処は月宮邸の中でも月宮の人間のプライベートの範囲だ。
誰何の声をあげ警戒するのは仕方のない事だろう。
だが…それも月明かりに部下である松田が姿を現したことで、惣一は幾分警戒を薄めた。
こういう稼業だ、いつ何時、緊急の用件があるのかもしれないことは了解していた。

「若…」
だが、そう声を出したっきり微笑むばかりの部下に惣一は薄まった筈の警戒がざわざわと増していくのを感じた…冷えた夜風が間を吹き抜ける。

「若頭、オレ、若頭が好きです」

一瞬、何を言われたのか惣一には分からなかった。
余りに突拍子の無い告白に、目を見開く惣一に、松田″は三日月のように口を釣り上げて嗤う。
薄ら寒い、ゾッと鳥肌が立つ笑みで、笑った筈なのに目の奥が底冷えする様な光が灯っていることに気付いて惣一は目を細める…彼の勘がコレ″は危険だと告げている。

「…テメェは誰だ」
惣一の言葉に松田はケラケラと今度は声をあげて嗤う。
悪意に満ちたような笑い方は惣一が知る松田の人柄ではなかった。

「やだなぁ、松田ですよ。マ・ツ・ダ。貴方の忠実な部下。松田 邦安(クニヤス)です。」
つい数時間前に、惣一と黒琥の送迎をして別れた人物の声と顔で目の前のモノ″は嗤う。
「生憎と、姿が一緒でも持ってる雰囲気が全く違ぇんだよ。」
普段とは違いすぎる姿に、淡々と切り捨てると松田はピタッと嗤いを止めて、両手を広げた。
まるで夜に羽ばたく蝙蝠のように…その眼は夜の闇の中で爛爛と輝いている。

「あー本当にイケメンだ、流石ですよぉー。
でもこのルートは駄目なんです、ルート違うなら運営は修正かけるでしょ?」

「何を言ってる」

「いいえ、何でもないです…ただボクを見て下さい。」

その輝く目を見た瞬間、グラッと体が傾いだ気がした。そして劣情を掻きたてられるように体がカッと熱くなり、松田″の腕が惣一を絡め取ろうと伸ばされる。
囚われれば不味いという本能で、惣一は自分の舌を咄嗟に噛むことで意識を保ち、松田の腕から引いてみせる。

「あららーん。あーマジか」
軽薄な物言いで松田″は、闇の中で金色に照り返す瞳を細める。
惣一の中でガンガンと警鐘が鳴り響いていた…グイッと袖で滲んだ血を拭いながら眉を寄せる。

「あまり調子に乗るなよ?」
敵には容赦はしないと続ける惣一に、松田″はハハハハハッと哄笑を上げて右手で顔を覆う。

「じゃあ・・・これなら、貴方はどうするのかな?」
そしてパッと彼が覆っていた手を離せば…その手の下から現れたのは今しがた部屋に送った筈の黒琥″だった。
「なっ」
驚愕に声が詰まる。目の前で起こった奇怪なことに、どう反応したらいいのか分からないでいる惣一は、普段なら有り得ない隙が出来ていて…あっという間も無く間を詰めてきた黒琥″の腕がスルリッと惣一に絡みつき。
金色に光る瞳で惣一の視線を絡み取りながら、しな垂れかかり…そして物凄い力で惣一の顔を引き寄せたかと思うと、無理矢理に口付けたのだ。

クチュッと淫靡に響く水音。

その口付けがされた瞬間、惣一の中を麻薬のような何かが浸食し、彼の思考を奪いつくし、瞳の中の光を奪い去る…そしてどこか意識が抜け、操られたように、ゆっくりと彼の手が黒琥″を掻き抱き、気付けば口付けを深く返していた。

そして惣一に口付けられる黒琥″は…唇を笑みの形にして、嗤っていた。





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