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=間章=
「何故あんなに、ダンダリオンが気になるのだろう、レインフェール」
ある日、我等が魔王陛下がそう云った日を思い出す、今から百年ほどは前のことだ。
「・・・それは私には絶対に分かりませんよ、陛下」
そう云うと陛下はフムと頬杖をついてソファーに凭れかかる。
さらりと漆黒の髪が流れるのが綺麗だった。
この幼馴染は重い宿命を背負っている。
逃れられぬ、そして辛い宿命を。
だからこそ情を交わすぐらいあってもいいのだと私などは思っている。
とそこにタイミング良く渦中の人物から声がかかった。
「陛下、ダンダリオンです・・・今年の瘴気の浄化報告に参りました」
陛下は少し慌てて居住まいを正す、微笑ましい。
「入れ」
そして入って来た凛々しい男はサッと陛下に一礼し、書類を差し出す。
それを陛下は手ずから受け取った。
これで陛下が退席の言葉をかければ終わりなのだが・・・それは余りに可哀相で。
「ダンダリオン伯爵」
「ハッ」
伯爵が凛とした視線を私に向ける、それに微笑んだ。
「私は用事が出来ましたので、伯爵は私が戻るまで陛下のお相手を宜しくお願い致しますね。」
「はい、畏まりました」
少し訝しくは思っているのだろうが、頷くダンダリオン・・・だが傍目から慌てているのは陛下の方だった。
「おいっレインフェール!」
「三日月の頃には戻りますので」
「おいっ」
そして私は二人を置き去りに、その部屋を後にした。
それが私の優しさだった。
「全くレインめ、自分勝手すぎる」
そして俺はソファーへ座りなおすと、ダンダリオンに隣りを指し示した。
「ダンダリオン、まぁ座れ」
静まれ、静まれ俺の心臓っ、魔王でありながら、情けないっ
「はい」
そう優雅に腰掛けるダンダリオンの典雅な香の香りが心地いい、心が沸き立つ。
「ダージリンで良いか?」
そう問いながら紅茶の準備をはじめ、視線を向けると、ダンダリオンの瞳に俺が映っていた。
深い複雑な色合いの瞳の中に俺が映っているのが・・・嬉しかった。
切ないぐらい。
ダンダリオンの男らしい大きな手が俺の頬を撫でる、ゆっくりと。
「紅茶は俺が準備します、陛下。」
ゆっくりと立ち上がり、手が離れて・・・カチャカチャと準備しだした、ダンダリオンを見詰める自分の頬は酷く熱い。
そして俺は自覚した・・・
俺はダンダリオンが堪らなく好きなのだ。
好きなんだ。
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