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『4.しあわせの代償は』
ただ大切な人と穏やかに生活したい、そんな人々の平穏を壊す魔物は『悪』だ。
人のささやかな幸福を俺はただ守りたいだけだった。
魔剣士・ビブレイア、賢者ジクスールといった心強い仲間の出会いや死闘を重ね・・・俺は終に魔王の城まで辿り着いた。
聖剣ヒュンベリオンに刻まれた光のエーテルに現れた強大な魔物達も一刀の元に切り伏せていく。
仲間達も健在で、俺は最上部に位置する魔王の部屋まで難なく到着した。
用心深くジクスールが補助魔法をパーティーの皆にかけてくれる。そして俺達は突入した。
「よく来たな、勇者達よ」
そして玲瓏な声がして・・・俺はその姿に釘付けになってしまった。
漆黒の髪と瞳・・・覗き込めば引き込まれそうな色合いで。
既に彼は臨戦態勢に入っていた。
今まで感じたことも無いような強大な魔力。
直感する。
「お前が魔王か」
「そうだ」
この短い言葉だけで充分だった。
俺達は最後の戦いに挑むのだった。
魔界の名だたる貴族は捕らえられ、ただ自分の主が傷付く様を「映しの魔法」で見ていることしか出来なかった。
「陛下が戦いに際して皆へお言葉をかけられる」と伝言があり、集まった悪魔達は魔王の幼馴染であるレインフェールに捕らえられた。
ダンダリオンもまた。
「陛下はこの世界の悪意、欲望、絶望を抱えて勇者に殺されることで、それを昇華される・・・犠牲が必要とおっしゃった。」
だからここで力ある魔族を抑えて勇者に勝たせようというのだ・・・ダンダリオンの気持ちも考えずに。
映し出された映像には、たった一人で勇者のパーティーに挑む魔王の姿が映し出されていた。
『こんなものか!勇者よ!!』
胸から血が滴っている、白皙の美貌である頬も切れて、苦しそうで、ダンダリオンは泣きそうになった。
優しすぎるほどに優しい貴方は、全ての悪意を背負って殺されようとしている。
貴方が愛おしいのに、俺はまだそれを伝えてない。
世界が何もかも無くなってもいいから、俺はただ貴方に側にいて欲しい。
そして映像は瞬く間に進んでいく、勇者が賢者の最大の炎の魔法・ギガフレイムを聖剣に受けて、
それを魔王に突きたてようと駆け出す。
それをゆっくり、スローモーションのように見ていた。
この先を見たくない、見たくないのに。
魔王陛下が笑う。
切なく微笑む。
唇が儚く動く、それを俺は「映しの魔法」を通して見ていた。
「やめろおおおおおお!!!!」
声は届かない。
手を伸ばしても触れることも敵わない。
そして陛下の心臓に勇者の聖剣が突きたてられた。
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